7月7-8日、アヴィニョンの北部にあるトリカスタン原発の廃水処理業ソカトリ社のウラン溶液貯蔵タンクのメンテナンス中、 タンクからウラン溶液約3万リットルが溢れ出し、職員100人余が被ばく、付近の運河・河川に74キロのウラニウムが流れ込んだ。原発の一部が閉鎖されたが、住民が使用する地下水から基準値数倍の放射能濃度を検出。水道水の使用や水泳、釣りも禁止。ホテルからは客足が遠のき、トリカスタン産ワインもイメージダウンし、銘柄の改名を希望するワイン業者が続出。家を売りたくても不動産価格も暴落し続けている。
トリカスタン原発は原発・化学産業コンビナートの中にあり、電気公社EDFの原発やウラン濃縮業、ウラン・フッ素加工業、軍事放射性廃棄物貯蔵区、核研究・開発所と10近い工場・施設が集合し、ラ・アーグ再処理工場と並ぶ核産業集合地だ。ウラン漏出後、地下水に浸透するまでに数日かかるが地下水の放射能濃度が毎日上下変動することから、何年か前から公表されない事故が起きていたのでは、という疑問が浮上。ちなみにラ・アーグ再処理工場からは毎日10万リットルの放射性廃液が垂れ流されており、周辺地域・海域の放射能汚染への警告がくり返されている。
今回の事故をきっかけに放射性廃棄物の貯蔵問題が前面に。1949年に原子炉第1号が稼動して以来、今日原発は全国58カ所に。すでに100万m3の放射性廃棄物を排出、2020年には200万m3に達する見込み。外国からの核燃料の再処理も行っているラ・アーグ工場の貯蔵区画は1994年に飽和状態に。50年代は放射性廃棄物を詰めた約4万個のドラム缶を大西洋沖に投棄したものだが、60年代以降は同再処理工場付近の窪地にドラム 缶を埋没させセメントで覆った。ノルマンディーのゴルフ場地下には数万個のドラム缶が眠っている。ドイツも60年代に岩塩鉱元坑道に10万個のドラム缶を埋没処理したが、最近地下水がしみ込み、毎日12m3の放射性地下水をポンプでくみ出しているという。
放射性廃棄物貯蔵管理局 ANDRAによると、粘質層の多い仏東部ロレーヌ、シャンパーニュ地方が放射性廃棄物の貯蔵地として最適だという。すでにシャンパーニュのラ・ムーズは廃棄物貯蔵地に指定されている。6月、同局は両地方の3千余の市町村長に貯蔵地候補への勧誘通知を送っている。サルコジ政権による軍事基地の削減政策で人口が激減する自治体は、放射性廃棄物のゴミ捨て場となり毎年数百万ユーロの援助金を得るか(離村が進み観光客も来なくなるが)、毒入りの援助金を拒否し後世の安全を保証するかの重大な選択を迫られている。
洞爺湖サミットで地球温暖化対策のため米仏両大統領は核エネルギーを奨励していたが、増大し続ける数千、数万年の長寿命の放射性廃棄物の貯蔵問題は念頭にないようだ。地球温暖化問題が原発の未知の脅威をかき消してはいないか。(君)
(写真:貯蔵待ちのラジウム系廃棄物(ドラム缶入りと粉末)。ANDRA)