引越と映画のふか~い関係
映画作品の中の「引越し」には2種類ある。まずは主人公が実際に引越す場合。そしてもうひとつは主人公の近くに誰かが引越してくる場合。はじめのケースで私が一番始めに思い出すのが、1976年のロマン・ポランスキー監督作品〈Le Locataire テナント/恐怖を借りた男〉だ。これは、ポランスキー演ずる主人公が、移り住んだアパートの前の住人が窓から飛び降り自殺未遂を図ったという事実にとりつかれ、しまいには彼女と同じ運命をたどる…というパラノイア的な要素がかなり入った心理劇。第二のケースでは、ルキノ・ヴィスコンティ監督の『家族の肖像』(1974)を挙げたい。こちらはローマの中心部にある広大な屋敷で孤独な隠居生活を送る元大学教授が、強引に間借りしたいと押しかけてきた金持ち女と彼女の愛人や娘たちに振り回されるうちにいつしか彼らに対し「家族」のような感情を抱き始め、しかも同時に潜伏していた自らの同性愛に開眼する…というストーリー。またファニー・アルダンとジェラール・ドパルデューが主演したフランソワ・トリュフォー監督の『隣の女』も第二のケースに当てはまるだろう。7年前に愛し合った男女が、偶然隣人となることで愛を再燃させるが、互いに家庭を持つ二人の愛は成就せず悲劇に終わる。
トリュフォーといえば、彼が長年撮り続けた主人公アントワーヌ・ドワネルも「引越し」を多く体験する。まずは短編〈Antoine et Colette アントワーヌとコレット〉(1962)。少年院を出てレコード工場で働くアントワーヌは、憧れのコレットに近づくため彼女のアパートの真ん前に引越し、バカンスから戻ったコレットと両親をびっくりさせる。次の〈Baiser volé 夜霧の恋人たち〉(1968) では、兵役から戻ったアントワーヌがサクレクール寺院の真ん前にある屋根裏部屋の雨戸を開け放って新生活を始め、続編〈Domicile conjugale家庭〉(1970) で既婚者となったアントワーヌは、浮気がばれて妻クリスチーヌにブルジョワ風のアパートから追い出され、完結編の〈L’amour en fuite 逃げ去る恋〉(1979) では、離婚成立の朝、レコード屋の売り子をする新しい彼女のアパートで目を覚ます。
実際タイトルに「引越し」がつく作品もいくつかある。その中で一番紹介したいのはシャンタル・アケルマンの〈Demain on déménage〉 (2004)という作品。ポルノ小説執筆に行き詰まる若い女流作家の家へ未亡人となった母親がグランドピアノと一緒に引越してきて騒動が起こる。冒頭とラストで宙づりになるピアノが「引越し」を象徴している。ほかには〈Bienvenue chez les Ch’tis〉を監督し大ヒットを飛ばしたダニー・ブーンの主演作、オリヴィエ・ドラン監督の作品はその名もズバリ〈Le Déménagement〉 (1997)。こちらでは引越しを目前にした若い作家のストレスがコミカルに描かれている。(海)
Le Locataire
Le Déménagement