思春期を脱しつつある若者たちをコミックスに定着した『ゴーストワールド』のダニエル・クロウズの代表作が、大判で再刊された。ガス・ヴァン・サント、ラリー・クラーク、ハーモニー・コリンといった、米国の気になる監督たちが描く青春像にドキドキした人は、本屋に直行だ。
この作品の登場人物たちも、湖に浮かぶ木のかけらのように、行き先もなく、その場であやうげに揺れうごいているだけ…。そんな頼りなさが、絵的にいうと、クロウズ独特の輪郭で表現され、つげ義春の登場人物たちの薄っぺら感と共通する良さがある。そういえばこの作品、水が大切な役割を演じている。湖で行方不明になった死体がふわっと浮かび上がってきたりする。ラストは水中の美しいキスで終わる。
主人公のデヴィッド・ボーリングは20歳の、これといった特徴もないふつうの男。レズのドットと一緒に住み、行方知らずになったコミック作家の父を、謎に満ちた彼の作品の断片を通して追い続け、芸術的なポルノ映画を撮ることを夢見、通りすがりの女に生涯を賭けたような恋をする。だから周りに犯罪が絶えないのも無理はない。恋の対象の女たちが、『ゴーストワールド』の時もそうだったけれど、スカーレット・ヨハンソンのようにぽっちゃりとした唇の美人なのが大いに気になるのです。(真)
Editions Cornelius発行。20.9€。