作為的に造られた「自然さ」。『殯(もがり)の森』

 河瀬直美監督『殯(もがり)の森』の本年度カンヌ映画祭グランプリ(審査員特別大賞)受賞は、ことのほか国際評価に過敏な日本では一大快挙として大きく扱われた。出身地奈良にこだわりつづける同監督は、今回も自然と人間の融合、西洋的な理論分析では割り切れない人間の魂の世界を、奈良の美しい自然の中で描いた。こういった視点をもちえない欧米人は、やはり自分には真似のできない世界観で描かれる作品にハマってしまうようだ。 
 認知症の人たちの介護施設、30年前に亡くした妻の面影と共にずっと生きてきた老人と、幼子を亡くした苦悶を秘めてこの施設に働きにくる新入りの女性介護士、この二人が主人公だ。最初はぎくしゃくしていた二人の関係が、亡き妻の墓参りと称して山奥に入ってゆく老人、彼に付き添う介護士、という二人旅の中で新たな関係に変化してゆく。二人は、ここで、喪あがりの儀式をするのだ…。
 河瀬直美という映画作家との出会いは、『につつまれて』(95)と『かたつもり』(97)。この2本は、自らの生い立ちを、母代わりに自分を育ててくれた祖母への愛情を、自分を捨てた父母へのインタビューを交えて描いた私的ドキュメンタリー作品だ。そこに溢れかえる映像作家、河瀬直美の感性、映像で愛情表現をしてしまう才能に感嘆させられた。その後、長編デビュー作『萌の朱雀』でカンヌ・カメラドール(新人賞)を獲得。確かに彼女にしかない感性で切り取られる映画には追随を許さないものがあるが、今回の『殯(もがり)の森』は、そんな自分の才能の上にあぐらをかき、自信過剰に走り、もっと深くへ入るべき作家としての探求心を失っている感がある。なんといっても、作為的に造られた「自然さ」が鼻についた。(吉)


Danielle Darrieux (1917~)

  「年齢は私にとって問題ではない。私はいつも自分の年の役があった。年をとることは特権よ。生きて、見て、たくさんのことを学べるわ」
 今年90歳の誕生日を迎えたダニエル・ダリュー。カトリーヌ・ドヌーヴが、「私に年をとることを恐れさせない唯一の女性」と形容する大女優だ。現在公開中のパスカル・トーマの新作『L’Heure
zéro』にも出演し、健在ぶりをアピールしている。
 1917年ボルドー生まれ。14歳で銀幕に登場し、映画の黄金時代を駆け抜けてきた。特筆すべきは、50年代に華開くマックス・オフュルス監督との目も眩むようなコラボーレーション。濡れた瞳とウットリとした笑みが美しい才気溢れる上流階級の女性を演じ、媚びはないのに全身「女」ともいうべき優美さと軽やかさを放った。またオペラ歌手であった母親の影響で、歌の才能も一級品の彼女。昨年、映画『Nouvelle
chance』で、アンヌ・フォンテーヌ監督が歌手でもあった彼女にオマージュを捧げていたのも忘れ難い。
 こうして、実に70年以上にわたり常に第一線で活躍してきたマダム・ダリュー。いつの時代においても現代的な女優でいられる彼女は、今日も「永遠に湧き出る泉」のような存在感で、若い世代にインスピレーションを与え続けるのだ。(瑞)


●Secret Sunshine

 幼い息子とともに都会から地方へ居を移す若い未亡人。平穏を求め夫の故郷を選ぶが、回りは好奇な視線を投げつける。そしてほどなく悲劇が訪れ…。
 いつでも究極でドラマティックな状況に主人公を投げ込む韓国の鬼才、イ・チャンドン監督の新作。人工的で薄っぺらいメロドラマが蔓延する中、正当派の成瀬的骨太メロドラマが新世紀を超えてもまだまだ有効であることを涼しい顔で証明してみせる。公開中のイギリス映画『This
is England』と同様に、人が新しい価値観(宗教や政治的志向)に染まる過程の描き方も秀逸で、現代的な問題をも提議。カンヌが最優秀主演女優賞を贈った女優チョン・ドヨンの「薄幸演技」にも注目。(瑞)


 

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