ありふれた風景が美しい。 “Helen Levitt”

 今年94歳の写真家、ヘレン・レヴィット(1913-)は、ニューヨークを愛した写真家だ。1930年代にデビューしてから、ニューヨークの人々の生活風景を撮り続けている。
 カルチエ=ブレッソン財団での展覧会は、30年代から80年代までのニューヨークと、ほとんどこの町から出たことのないレヴィットが1941年に旅したメキシコの写真で構成されている。
 18歳のときからブロンクスの肖像写真スタジオで働き、そこで写真技術を覚えた。4年後に出会ったウォーカー・エヴァンスとカルチエ=ブレッソンから大きな影響を受け、写真家になる決心をする。3年後には、エヴァンスの助手になった。
 エヴァンスは、レヴィットの写真を「反ジャーナリズム」と評したという。たしかに、社会的な写真ではない。レヴィットの作品には、遠い日の記憶のような落ち着いた安心感がある。
 それなのに、なぜか日常の出来事という現実感がない。瞬時を捉えた構図があまりにも絵画的で美しく、計算されたもののように見えるからだ。
 特にカラー写真でそれがわかる。艶のあるオリーブグリーン色の車と道の間に蜘蛛のように這いつくばっている少女(1980年)。後ろの車のくすんだ水色とグリーンの対比が美しい。画面の中で2台の車が絶妙なバランスで切り取られている。
 帽子を被って外出する太った女性(1970年)。帽子のリボンの赤、自販機の赤、隣の店の棚に並ぶ缶詰の赤、コーラの広告の赤と、帽子、バッグ、ブラウスの白、コーラの広告の白が鮮やかなコントラストをなしている。道で遊ぶ5人の子どもたち(1972年)。服と枕の色が、背景の落書きの色と同じだ。
 その視点で白黒を見る。大きな枠を持って道で遊ぶ子どもたち(1940年)の作品では、子どもの服の縞模様と枠の直線のライン、建物の窓枠のラインの縦横が重なり、リズムを作り出している。
 ありふれた風景をこれほど美しく見せる手腕は見事だ。レヴィットがシュルレアリスム、コクトーの映画やアッジェの写真からインスピレーションを得たと知って、腑に落ちた。(羽)

“New York, 1980” Helen Levitt/ courtesy Laurence Miller GalleryFondation Henri Cartier-Bresson (HCB) :
2 impasse Lebouis 14e
www.henricartierbresson.
org

12月23日迄。火-日13h-18h30 土11h-18h45。月祝休。  水18h30-20h30は無料。


G A L E R I E : Galerie Claude Samuel 

 アジアから工業製品を輸入する仕事をしていたクロード・サミュエル氏が、妻のエリザベートさんと共に1986年に設立した。オープニングは工藤哲己展だった。
 美的であることも大切だが、社会に対しはっきりした視点を持った作家を扱っている。その中には、記憶を扱う作家(昔そこにあったユダヤ人住居の資料を現在のベルリンの建物にスライドで投射したシモン・アティ)、「書くこと」を媒介にした作家(詩的コラージュを作った詩人アラン・ジュフロワ)もいる。「顔のないイコン」とサミュエル夫妻が評する彫刻を作るフランソワ・ムリニャもその一人だ。
 10月27日までは、今年のヴェネチア・ビエンナーレで、それまでの全作品に対し金獅子賞を贈られたマリの写真家マリック・シディベの個展を開催している。この画廊では4回目だ。「彼の写真には普遍性がある」と、サミュエル氏は言う。
 シディベには、写真館で撮る肖像写真にありなちな画一性がない。被写体の望むものと一緒に撮ったことで、人間の生き生きとした個性を出すことに成功している。(羽)69 av.Daumesnil 12e 
www.claude-samuel.com 

●Arcimboldo

 果物や野菜で構成した人物の顔で有名なミラノ生まれの画家アルチンボルドは、16世紀後半、ハプスブルグ家のウィーンで才能を開花させた。鏡を置いて見なければわからない作品も。同時代の作品を併せ約百点を展示。1月13日迄。
Musée du Luxembourg : 19 rue de Vaugirard 6e

●Corinne Gradis & Elodie Watanabe

 二人のテキスタイル作家が共同制作したアップリケ。アフリカなどの布を使った詩的な作品50点。10月3~13日。
AGAAP-Galerie 43 : 43 rue Vandrezanne 13e 

●Kaarina Kaikkonen (1952-)
 拾った物を素材にすることで知られるフィンランド人作家のインスタレーション。背広を教会の前の階段に敷き詰めた作品のビデオと他の作品の写真。古いハイヒールとスプーンでできた虫が入り口の壁に。10/20迄(日月休)。
Institut Finlandais : 60 rue des Ecoles 5e 

●James Brown (1951-)

 メキシコ在住のアメリカ人画家が描く宇宙的空間。隕石のような形が点描の中でうごめく。10月13日迄。
Galerie Karsten Greve : 5 rue Debelleyme 3e

●Picasso Cubiste
「セザンヌ風」、「分析的」なものなど、ピカソのさまざまなキュビスム作品を展示。有名な『アヴィニョンの娘たち』は不在。1月7日迄(火休)。
ピカソ美術館 : 5 rue Thorigny 3e