「この辺りを一言でいうなら快適でモダン。緑豊かで家族連れも安心して過ごせる地区」と語るのは、セルジュ・トゥビアナさん。一昨年、トロカデロのシャイヨー宮から、ベルシーへ移転したシネマテークの館長である。セーヌ河岸のこの周辺には、ミッテラン国立図書館、レストランやカフェの並ぶベルシー・ヴィラージュのほか、年間300万人の入場者数を集める映画館UGCベルシーや、パリで最も大きな映画館の一つ、MK2ビブリオテックが勢ぞろいし、パリの文化地区の花形となってきた。 新旧の世代交代劇では、嫉妬や困惑を引き起こし、多くのトラブルに見舞われたが、トゥビアナさんが就任してすぐに実行したのは、館の移転。「シャイヨー宮のシネマテークは、一見さんお断り的な、閉ざされた空間になってしまっていたんだ」。そんな息切れ状態の旧シネマテークに、新しい息吹をあたえる必要があったという。「シネフィルの地域も変わってきた。土地の高騰でブルジョワ化が進んだカルチエラタンは、昔の魂を失ってしまったよ」。そして「今は大型シネコンのあるレアールや19区のセーヌ河岸、この再開発された国立図書館界隈やベルシー地区に活気が溢れているんだ」 1949年、チュニジアのスースに生まれ、1962年に一家揃ってグルノーブルにやってきた。「映画からは新しい世界が見えた。そしてすべてを学んだ」というトゥビアナさん。ある日、世界観を逆転させるほどの衝撃作に出会う。『気狂いピエロ』。「鑑賞前と後では、同じ人間ではなくなっていた」という。22歳でパリに上京、その後批評家のセルジュ・ダネーと出会い、2000年までカイエ・デュ・シネマ誌の編集長として活躍した。 トゥビアナさんが2年前から暮らすのは、日本レストランがひしめくピラミッド界隈。ここからベルシーまでは、地下鉄14番線で約10分と、非常に便利だ。親日家の妻で小説家のエマニュエル・ベルナイムさんとは、馴染みの和食店によく足を運ぶ。「日本とは不思議な縁があって、友情を結んだトリュフォーの訃報を知ったのも、初めての東京…」 就任以来、今では館内の上映作品を制覇できないほど、多忙な日々。週に一度の休日は、チュイルリー庭園を散歩するのがお決まりで、午後の楽しみはサッカー観戦につきる。これはトゥビアナさん流の、パリで暮らす一番のストレス解消法なのである。(咲) |
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●チュイルリー庭園 「まっすぐのびた道をただひたすら歩き、頭を空っぽにする」のが土曜早朝の日課というトゥビアナさん。ルイ14世の時代、ルノートルが造園したこの庭園は、パリで屈指の美しさを誇っている。緑深まり、美しいリラの花が咲き誇るこの頃、噴水の周りで日光浴を楽しむ人、芝生の上に寝そべる人、思い思いの時を楽しんでいる。ここでは、ベネックスの『ディーバ』やツァイ・ミンリャンの『ふたつの時、ふたりの時間』も撮影された。 開園時間:夏期7h~21h、冬期7h30~19h30。 |
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