彼の視点は明らかに植物側にある。 “Le Douanier rousseau – Jungles a Paris”

 日本でも超がつくほど有名なアンリ・ルソー。今さらルソーでもあるまいに、と思っていたが、今年、あらためてルソーの作品を見ることには意義がある。植民地主義との関連のうえで、だ。

 今年は、フランスで、植民地主義にまつわる象徴的なできごとが起きた。1月、シラク大統領は、植民地主義を肯定するとして問題になった「2005年2月23日の法」第4条を廃止した。5月10日には、黒人奴隷売買とその廃止を記憶にとどめるための公式の記念式典が、初めて行われた。
 また、パリ市の12区区役所では、「1931年の植民地博覧会に対する、75年後のまなざし」と題された催しが、11月14日まで開催されている。
 博覧会では、フランスの植民地の住民たちが見世物となった。この「人間動物園」の原型となったのが、1877年にブローニュの動物園にできた「民族展覧会」だ。この形式は、その後欧米で盛んに開催された万博に引き継がれた。一般市民は、囲いの中の「エキゾチック」な動植物や人間に初めて接して、大いに好奇心をそそられた。
 南国の風景を描いたルソーは、実は一度もフランスから出たことがなかった。動植物園で南国の動植物を見たり、雑誌に載った植民地の写真や挿絵からインスピレーションを得て、想像で描いたのだった。当時のフランスでは、「野蛮」で「原始的」な植民地の住民と動植物を背景に、白人冒険家が活躍する物語が広く読まれた。会場では、ルソーのアトリエにあったこれらの雑誌を見ることができる。ルソーも当然行ったはずの、1878年、1889年、1900年の3回のパリ万博と、上記の民族展覧会の写真も展示されている。
 南国を舞台にしたルソーの一連の作品を見ると、奇妙なことに気付く。野獣が獲物を襲っている作品で、主人公の動物たちが、いっこうに真剣に闘っているように見えないのだ。張子の虎やライオンが、観客のために演技をしているように見える。それよりも生き生きしているのは、彼らを囲む植物だ。好奇心を一杯にして、「死闘まがい」を覗き込む木や花。そこに、自然であるかのように演技する「原住民」を見に来たフランス人の姿が重なる。ルソーがそこまで考えていたかどうかは不明だが、彼の視点は、明らかに植物側にある。(羽)
グランパレ:6月19日迄(火休) 
Galerie Patrick Seguin
 ル・コルビュジエ、ペリアンド、ジャンヌレ、プルーヴェほか、20世紀フランスを代表する建築家、デザイナーの家具を専門に扱うギャラリー。一見単なる倉庫の入り口風だが、飾り気ないグレーの鉄扉を開けると、その向こうにはコレクショナーが歓喜しそうな50~60年代の稀少オリジナル家具や照明が広い空間に整然と並ぶ。さながら小さな美術館のようだ。
 1989年よりギャラリーを運営するキュレーターのスガン氏は、国立鑑定局より現代アート及び20世紀建築デザインのエキスパートに公式認定されている。パリ、ニューヨークを中心に、世界各地アンティーク家具展示会に出展するのはもとより、美術館の展覧会にも多くの作品が展示され、ギャラリーとしてのオーソリティが感じられる。
 1930年代の経済危機、第2次世界大戦、ドイツ軍占領時代を経て、50年代は人々が渇望状態にあり、芸術界は〈ルネサンス〉ともいえるエネルギッシュな開花期であった。建築、デザインでは「機能と美しさの融合」が求められ、ル・コルビュジエが代表するように、今日の原型を築いた。無駄なく美しく、洗練された作品らが、ギャラリーのなかに眠っている…というよりは息づいてる。建築・デザイン科の学生、ファン、コレクターならぜひ訪れたいギャラリーだ。奥の小部屋にも多くの作品があるのでお見逃しなく。(久)
5 rue des Taillandiers 11e 01.4700.3235
M。Bastille/Ledru Rollin 火~土10h-19h

●Otto DIX (1891-1969)

 第1次大戦に23歳で従軍し、終戦まで描いた数多くの木炭デッサンから20点。戦争の狂気、悲惨を告発。事実を美化せず真実だけを描こうとした「新即物主義」の画家の原点。6/24迄。
Galerie Tendances : 105 rue Quincampoix 3e

●George ROUAULT (1871-1958)
 キリストの生涯と受難に、第1次大戦で浮き彫りになったヨーロッパ社会の腐敗、人々の苦しみを重ねた作品「ミゼレーレ」。版画集として知られるルオーの代表作の、同テーマの水彩、油彩作品約30点を展示。6/7-7/7迄。
Galerie Yoshii : 8 av. Matignon 8e
●Los Angeles 1955-1985
 NYと並びアメリカの重要な芸術都市カリフォルニアのLA。サーフィン、フリージャズ、ヒッピー、ベトナム反戦運動、フェミニズム、ディズニーランド、ハリウッド映画。様々な文化とともに変化する独特のアートシーン。85人、350点の作品。7/17迄
ポンピドゥ・センター(火休)

●Fausto MELOTTI (1901-1986)

 時の流れにそよぐ音楽のような軽やかで詩的な立体作品。金属、石膏、テラコッタ、布など自由に素材を用い、抽象と具象の狭間に震える作品群。6/2-7/20。
Galerie Karsten Greve : 5 rue Debelleyme 3e

●L’Envolee lirique
 第2次大戦後パリに花開いた叙情的抽象主義。「抽象絵画」を1910年にカンディンスキーが発表したのち、形体を幾何学的に純化させる流れの一方で、感情的に抽象表現を試みる画家たちがいた。ニコラ・デ・スタール、アンリ・ミショー、菅井汲など約100点。8/6迄。
Musee du Luxembourg : 19 rue de Vaugirard 6e

●Cindy SHERMAN (1954-)
 少女、ピンナップガール、老女。虚構空間に作られた様々なアイデンティティを自ら演じ、記号化された役割を負って生きる人間の存在を解放するかのような作品。写真家シンディ・シャーマンの回顧展。9/3迄(月休)。
Jeu de Paume : 1 place de la Concorde 8e