パリから日帰りで海を、といったら、やはりサンラザール駅。ドーヴィルへもここからで、『男と女』のラストシーンが思い出される。しかし私は、1世紀以前バイキング時代からの歴史を持ち、英語の “Deep”が語源というディエップへ、おいしい魚、海を目指して出発。途中ルーアンで乗り換えがあるものの2時間弱で、このノルマンディーの港町へ着く。
ちょうど土曜のマルシェに居合わせたが、もちろん漁師直売スタンドの賑わいは想像しかり。なんと7キロもあるヒラメ! そしてニシン、サバの目の澄み加減は新鮮な証拠だ。昼食前に、モネ、ピサロによって描かれている海岸を見ながら、Varengevilleにある海を見下ろす教会を訪ねる。その目的は、ジョルジュ・ブラックによるステンドグラスだ。
ディエップに戻って、どんな旅でもメインイベントとなる食事。中世からの漁師街ポレで見つけたこぢんまりとしたたたずまいの〈Bistrot du Pollet〉は、列車代を払っても食べに来る価値がある、と断言したい。料理の質の高さ、シェフの作りだすお皿の繊細さ。隣で満足げに食事を終えた客は、「月に一度は来るの」という英国からのカップルだった。
食後には、漁師町なら必ずある、海を見下ろす高台のチャペルへ。海で行方不明になったdisparus en mer(亡くなったとはいわない)漁師や船員たちをまつってある。ここからは、遠く海すべてが見渡せる。また、この周りには、第2次世界大戦のトーチカが残り、何度も侵略されたこの町の歴史の跡も、垣間見られる。
再び町の中心へ戻る途中、路地ですれ違ったり、カフェのテラスなどに座っているこの町の住人たちは、まだ初夏が始まったばかりだというのに、皆きれいに海焼けしている。観光客が全く見当たらない海岸へ行けば、彼らの日常のいこいのひとときがうかがえる。今や、英国行きフェリーの便数もめっきり減ったなど、時の変化と共にディエップは変わっているが、海と共存する人々は淡々と生き続ける。そんな思いをめぐらせながら、ディエップを後にした。おしゃれなカフェや、映画のワンシーンはないけれど、自分の足で何かを見つける喜びを、ディエップでは味わえる。(麻)7キロのヒラメは112ユーロ!
曇り空にカモメが飛ぶ。遠くの高台には教会。
朝市が立ち、カフェのテラスが賑わう。港町のせいか海焼けした客が目立つ。
人気のない海岸。
遠くに白い崖。
Bistrot du Polletではやっぱりヒラメに舌鼓。
Dieppe
●サンラザール駅から約2時間。往復54.6euros。
●観光局
Pont Jehan Ango 02.3214.4060
www.dieppetourisme.com
●レストラン
ワイン次第だが一人50euros前後。予約した方がいい。日月休。
Bistrot du Pollet : 23 rue Tête de Boeuf 02.3584.6857
●Varengeville
タクシーで往復30euros前後。