ものの見方が影響される。 “Hans Bellmer”

 (羽)は、まったく関係のないものを体の部分と比べて、「△△が○○に見える」と正直に言うため、連れから「セックス・マニアック」と揶揄される。こんな輩(やから)は、ハンス・ベルメール展を見てからそう言ってほしい。ベルメールの想像力には、ただただ脱帽するのみ。彼に比べたら、(羽)なんぞ、ライオンを前にした子猫のようなものだ。

 ベルメールにあっては、ドレスのヒダが人体の筋肉になり、頭の中に女性の脚や尻が描かれる。表面に出てこないだけで、本当はみんな、心の奥底ではこうした想像を働かせているに違いない。そこにフタをしないで、自分の深層心理をとことん追求したのがベルメールだ。
 1902年にドイツで生まれたベルメールは、1933年、ヒットラーの出現を契機に、「社会的に有益な仕事」を止め、人形制作に没頭する。等身大の人形には、ただの「エロチック」というものさしでは測れない、暴力的な凄まじさが漂う。欲望がガン細胞のように人形の体に取り付いて、コブを増殖させている。膝や腕から先がない、ぶたれたような顔の人形は、西太后に手足を切断され瓶の中で生かされたといわれる、清朝の皇帝の愛妾の姿を想像させる。
 会場はそう広くないが、ベルメールの精神が凝縮されている。写真、人形、絵画、版画に加え、未公開のデッサンやスケッチブックもあり、見どころが多い。かなり神経が疲弊するが、晩年の作品群までくると、感覚が麻痺して、どんな作品を見ても驚かなくなってくる。といっても、これは一人で見る場合。性器でできた「お父さんの顔」もあり、子供連れの親は気まずい思いをするだろう。
 戦前と戦後、ベルメールはフランスに移住し、シュルレアリストたちから大きく支持された。ジョルジュ・バタイユの『眼球譚』の挿絵を描いたのもベルメールで、この作品も展示されている。
 ベルメール展のあと、近くのデパート、BHVに行く。地下の工具売場の防塵マスクが、切り取られた片乳房に見えてくる。自宅に帰ると、軸を中心に左右に回る浴室の蛇口の取っ手が、丸い胴体で繋がった、可動性のあるベルメールの人形の脚に見えてくる。ベルメールの毒気は強烈だ。しばらくのあいだ、ものの見方が影響される。(羽)
La Poupee, 1935-1936
Centre Pompidou, Musee national d’art moderne, Paris C: Photo CNAC/ MNAM Dist RMN/
C: Georges Meguerditchian

ポンピドゥ・センター 5月22日迄(火休)

Galerie Minsky   画家レオノール・フィニ(1907-1996)の画商アルレット・スアミさんが、画家亡きあと彼女に捧げたギャラリー。「ミンスキー」の名はレオノールの愛称に因んでいる。
 優雅で美しく自信に満ちたレオノールに、当時パリ7区のギャラリー責任者だったアルレットさんが出会ったのは1980年代の初め。アルレットさんを自分の作品を独占的に扱う画商に決めてしまったのは、レオノール自身だった。
 ブエノスアイレスに生まれた独学の画家レオノール・フィニは、ラファエル前派、形而上絵画の影響を受けて少女時代をイタリアに過ごす。1931年パリへ。ピエール・ド・マンディアルグ、エルンストらシュルレアリストと交友し、独特の幻想世界を絵画や舞台美術に表現。ダリ、コクトーなど多くの芸術家を惹き付けたが、彼女の仕事はフランスではあまり重要視されていない。
 昨年6月から12月まで日本全国4カ所の美術館で大展覧会が開催された。ギャラリーでは「日本からの帰還」と題し、9月まで特別展を開催。来年はイギリス、オランダでの展覧会が予定されている。
 今後もフィニの素晴らしさを伝え続けていこうというアルレットさん。「フランスで彼女が重要とされる時期は近いと思います」(仙)
46 rue de l’Universite 7e

●faust CARDINALI (1961-)
 男性としてのアイデンティティは性的欲望を噴出させながらどのように形成されるのかを問うカルディナーリの作品。5/13迄。
Galerie 14: 11 rue Bonaparte 6e

●Into Drawing
 オランダ人アーティスト22人のデッサン作品。最新オランダアートの行方。5/21迄(月休)。
Institut Neerlandais : 121 rue de Lille 7e

●Paris dans l’objectif
 写真エージェンシー〈Agence Vu〉創立20周年を記念して、パリをテーマにした所属写真家の作品を屋外に展示。5/28迄。
Boulevard Pasteur 6e
M。Pasteur出口からrue Falguiereまで。

●Italia Nova
 1900-1950年代のイタリア芸術の流れ。伝統美の概念を否定し、テクノロジーの発展を讃美した未来派。個人的内面性を重視し、シュルレアリスムの先駆けとなった形而上絵画。反前衛をモットーに、ルネサンス以前のイタリア絵画の伝統に回帰したノヴェチェント。空間の視覚化を実現した第2次大戦後の空間主義。価値観がめまぐるしく変化した時代のイタリア芸術思想の変化。ボッチョーニ、バッラ、デ・キリコ、フォンタナなどの代表作品。7/3迄。グランパレ(火休)

La matinee angoissante
Giorgio de Chirico 1912
C: ADAGP, Paris 2006

●Gaston CHAISSAC (1910-1964)
 アール・ブリュットの画家として知られるシェサックの絵画作品や書簡200点。質素な家庭に生まれ独学で絵を描く。毎日書き続けたおびただしい数の文書は、絵画やコラージュと交錯し、皮肉な口調で権力を揶揄する。7/22迄(日休)。
Musee de la Poste: 34 bd de Vaugirard 15e

●La Force de l’Art
 15人のスペシャリストがそれぞれの視点で選んだフランス人とフランス在住外国人アーティスト約200人の作品。賛否両論のドヴィルパン首相肝煎りの新たな催しは、低迷気味のフランスアートシーンを盛り上げられるか?5/10~6/25迄(12h-20h)。
グランパレ(火休)

●〈La Nuit des Musees〉
 今年で2回目を迎えた「ミュージアムの夜」。5月20日夜、フランスのほか、イタリア、ベルギー、ドイツなどヨーロッパ38カ国、合計1700のミュージアムがそれぞれの趣向を凝らして見学者を迎える。
詳細はwww.nuitdesmusees.culture.fr