写真家から民族学者へ。 Pierre Verger (1902-1996)

 パリで生まれブラジルで亡くなった写真家・民族学者ピエール・ヴェルジェ。ブルジョワ出身のヴェルジェが写真家になったのは30歳のころ。友人の写真家ピエール・ブッシェの影響だった。
 旅をするのが大好きで、母親の死後、自分の欲望に正直に生きようと決心した彼は、カメラ片手に世界中を駆け廻った。1933年にポリネシアで撮った最初のシリーズが民族博物館(現在の人類博物館)副館長リヴィエールの目に止まったのがきっかけで、民族学者レリス、メトローらと知り合う。1934年ブッシェたち写真仲間とパリで写真エージェンシー〈アリアンス・フォト〉を結成し、ヨーロッパ、南北アメリカ、アフリカ、アジア諸国と、独特の感性で大胆な構図のルポ写真をプレスに発表すると同時に、博物館や研究書のための写真も撮影していた。また、パリ15区ブロメ通りにあったクラブ〈Bal n夙re〉で演奏されていたアンティーユ諸島のアフリカの影響が強い音楽を好んでいたという。
 14年続いたルポルタージュの旅は1946年、初めて訪れたブラジルのサルバドール・ド・バイアで一変する。この町の黒人文化に彼自身の故郷を見い出したのだった。自分自身を知るためここに定住し、ブラジル北東部の黒人文化のルーツを探り始めた。
 〈オリシャ〉と呼ばれる神々の信仰、トランス状態を伴う呪術的儀礼〈カンドンブレ〉などは、アフリカ西海岸ベナンのヨルバ族の文化に起源があった。この研究のために1953年、ヨルバ族のカンドンブレの秘儀加入者になる。〈ファトゥンビ〉という名と〈秘密の父/ババラオ〉の称号を授かったヴェルジェは、バイアのカンドンブレにも入り、海を隔てた両文化のルーツを結ぶ役目を果たした。この研究は『アフリカの神々』(1954)、『ベナン湾とバイア間の黒人売買からの変化』(1968)などの論文で発表。1980年には写真家としての活動をストップしてしまった。「写真のせいでわからなくなってしまった。文章を書き、物事を理解するはめになってしまった。それまでは分析しようなどと思わなかった。気の趣くままに写真を撮りたかったのだ。私は写真家だった。説明なんて興味なかった。ただそこにあるものを見て、美しさを味わいたかったのだ」。写真家ピエール “ファトゥンビ” ヴェルジェは不本意ながら民族学者になった。
 彼が残した6万という膨大な写真の数に比べるとプリントがわずか100点しかないのが残念だが、呪術儀礼の研究写真100点はスライド映写で見ることができ、ヴェルジェの生涯を描いた映画上映(1時間22分)もあるので、ぜひ時間をかけて見たいエキスポジションだ。(ヤン)

Hotel Sully : 62 rue St-Antoine 4e 12月24日迄(月休)。
Musee des arts derniers  2003年創立のパリ初のアフリカ現代美術専門ギャラリーだ。アール・デルニエ(最新芸術)は、元々アール・プリミティフ(原始芸術)と呼ばれていたアール・プルミエを捻って命名。
 「アフリカは失われた楽園のように捉えられているが、それは幻想。現代作家の展覧会が、出身がアフリカというだけで民俗博物館で開催される現実は、どう考えてもおかしい」と、15年ジンバブエに住んだオーナーのオリヴィエ・シュルタンさんは言う。
 ギャラリーではなく「ミュゼ(美術館)」にしたのは、一般の人に来てほしかったから。ギャラリーにすると、売買が目的の人しか来ないそうだ。
 開催中の「アフリカ最新芸術国際見本市」は12月31日迄。アフリカ人と、アフリカに住んだことがある西欧人芸術家21人の彫刻、写真、絵画。今年のFIACよりずっと活気があり、いいエネルギーが感じられる。(羽)
105 rue Mademoiselle 15e 11h-19h
●Frank STELLA (1936-)
 絵画の意味や習慣の束縛から逃れた自由な表現方法で、1950年代末から今日まで精力的に活動しているフランク・ステラ。19世紀初頭のドイツ人劇作家クライストの生涯をテーマにした〈O侯爵夫人〉(1998-2000)をフランスで初めて公開。幅13mのレリーフペインティング。12/7迄。
Galerie Daniel Templon : 30 rue Beaubourg 3e

●DADA
 第1次大戦中の1916年、チューリッヒの〈キャバレー・ボルテール〉でツァラやフ−ゴー・バルを中心に生み出された芸術運動ダダ。意味のない音をつないだ詩、コラージュ、オブジェなど斬新な技法や概念が生まれた。ニューヨークやヨーロッパ各都市に広がったダダ運動はそれまでの芸術的価値観を根底から変え、今日の現代アートに多大な影響を与えている。50人のアーティストの作品1000点を展示。2006年1/9迄(火休)。
ポンピドゥ・センター

●Picasso : La Passion du dessin

 ピカソ美術館開館20周年を記念するエキスポジション。350点のデッサン、水彩、グワッシュ、パステル、パピエ・コレ。2006年1/9迄(火休)。
ピカソ美術館 : 5 rue de Thorigny 3e

●Klimt, Schile, Moser, Kokoschka.
Vienne 1900
 1897年に起こった前衛芸術運動、ウィーン分離派は、絵画・彫刻といったアカデミックな表現の枠組みから離れ、自由な精神で工芸、デザインなどを含む総合的な芸術を目指した。運動の中心人物クリムトを始め、シーレ、ココシュカ、モーザーらの作品約150点。2006年1/23迄(火休)。
グラン・パレ : 3 av. General-Eisenhower 8e

●Willy RONIS (1910-)
 パリとパリの人々を70年間撮り続けてきたウィリー・ロニスの繊細で人間味あふれる写真。貴重な歴史的資料でもある作品の数々。2006年2/18迄。
パリ市庁舎 : 29 rue de Rivoli 4e