『La Dilettante』など良質のコメディで知られるパスカル・トマ監督作品。叔母を訪ねるため、山合いの高級老人ホームへ車を走らす夫婦、プリュダンス(カトリーヌ・フロ)とベリゼール(アンドレ・デュソリエ)。ある老女が失踪を遂げたことから、夫婦は危険な謎解きゲームに足を踏み入れることに。
原作はアガサ・クリスティー。監督は有名作家のミステリーを自らの物語に再構築できたのか、結果は吉と出た。テンポ良く発される辛口ユーモアの台詞の応酬と、アマチュア探偵マダム・プリュダンスのとぼけた存在感。それらは怪しく幻想的な片田舎の空の下、ミスマッチにマッチする。全編少しずつが見どころで、一見慎ましい面持ちの本作。だが強調ばかりが映画の個性ともてはやされる今の時代に、逆に野心的な作品にも見えてくるのだ。(瑞)
●Les Mauvais joueurs
T・ジルの喜劇『原色パリ図鑑』とは打って変わり、F・ブレクジアン監督のこの作品では、パリのサンチエ地区が暗くシリアスに、フィルム・ノワールの影響を強く感じさせながら描かれる。主人公が属するアルバニア人社会、そして主人公の恋人が属する中国人社会がドキュメンタリータッチで映し出されて興味深い。主演のP・エルベも、無口なルーザー役を好演している。(海)
●Garden State
TV俳優の青年アンドリュー(ザック・ブラフ)は、母の葬式に出席するため故郷ニュージャージーに滞在。ここで過去のトラウマから解放してくれる女性サム(ナタリー・ポートマン)に出会う。実際にTVドラマの俳優ブラフ本人が脚本、監督を手がけた恋愛ドラマ。映画祭受けしそうなおしゃれなオフビート作品だが、人生へ注がれる内省的、感傷的な眼差しが確かに胸を打つ。(瑞)
Catherine Frot
新作『Mon petit doigt m’a dit』では、好奇心旺盛のブルジョワ婦人に扮するカトリーヌ・フロ。彼女の周りだけ無重力空間が漂っているような、ふわふわした存在感が異色の逸材だ。
1957年5月1日、パリ生まれ。エンジニアの父と数学教師の母の間に生まれる。14歳の時、偶然訪れたマドリッドが、彼女の運命を決める。「プラド美術館でエル・グレコの絵を見て、その生彩さに感嘆しました。私も自分の方法で、力強く人物を描こうと決めたのです」。17歳でコンセルヴァトワールに入学。78年には演劇カンパニー「赤い帽子」を旗揚げ。ジャン・ピエール・ダルサンらとともに活動を開始。80年、アラン・レネ監督の『アメリカの伯父さん』で、スクリーンに端役デビュー。90年代にはバクリ&ジャウイのコンビ作の舞台『家族の気分』で、愚かな義姉ヨヨを演じ当たり役に。本作が映画化された際も同じ役を好演し、彼女の名を映画界に知らしめることとなる。
その後も、とぼけているのに憎めない、癖があるのに嫌みでない道化師ぶりで、コメディを中心に活躍。近作に『Les Soeurs Fachees』、『Boudu』。だが、『Cavale』などシリアス調の作品の中にいても決して浮かない。彼女の芸の深さは、これからもっと発掘されるはずだ。(瑞)