フランスに帰化したロシア人抽象画家、セルジュ・ポリアコフのグアッシュ展。 1900年にモスクワの富裕な家庭に生まれたポリアコフの人生は、1917年のロシア革命で一変する。著名な歌手だった叔母とロシアを逃れ、ギター弾きとして放浪した後、1923年にたどり着いたのがパリだった。その後、ギターが生活の糧となったというから、絵だけでは生活できなかった画家の苦労がうかがえる。絵に専念できるようになったのは、初めて作品が美術館に買い上げられた年の4年後。画廊と契約できたおかげだった。ポリアコフは52歳になっていた。 いくつかの絵画アカデミーで勉強した後、35歳のとき、ロンドンに渡る。大英博物館で、エジプトのミイラの木棺に、色が重ね塗りされて層になっていることを発見したのが、画家としての一大転機になった。これをヒントに、グアッシュの色を混ぜるのではなく、上から重ねていく技法を使い始め、独特の質感を作り上げることに成功した。 ポリアコフの色には、ボリュームがある。しかし、決して重くはなく、葛(くず)でできたお菓子のように、柔らかくフルフルとしている。色は、絵の中で同じ位置を保ちながら、動いている。 同じ抽象でも、前回紹介したオーレリー・ヌムールのような、色同士の対話や、色が語りかけてくることはない。1955年頃のComposition rougeでは、黒も黄色も、そこにあるのみ。けれども、静かに、ただそこにあるだけで幸せな黒なのだ。 「象徴主義の絵画では、赤い丸は太陽を示しているが、それは違う。赤い丸は赤い丸だ」。こう語ったポリアコフに、色や形への意味づけや、心情的な思い入れはなかったのだろう。 生活のために、1946年にテキスタイルデザインを手がけたことがあった。好評を博したが、続けていたら絵がダメになると感じて、やめてしまったという。穏やかにそこにある色は、布の上に転写されても、同じようにそこにある。ポリアコフの色にはそんな従順さがあるだけに、工芸に芸術家精神を盗み取られてしまうのではないかと危惧したのかもしれない。(羽)
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Composition rouge, vers 1955 Gouache sur papier 46x61cm C : ADAGP 2004
Fondation Dina Vierny-Muse Maillol |
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Le Plateau アートスペース『le Plateau』は、ビュット・ショーモン公園の北、テレビや映画のスタジオ、プロダクションのあったSFP跡地の一角にある。大手不動産企業によって集合住宅に変えられた一帯だが、文化の匂いを少しでも残そうと設立されたもので、ジャンルを問わず現代美術を紹介するスペースとして2002年1月にオープンし話題を呼んだ。 広く無機質な空間にはゆったりと作品が展示され、アーティストが繰り広げる世界にじっくりと浸ることができ、美術館レベルの満足感が得られる。 現在展示されているのは写真家エリック・ポワトゥヴァンの作品(11/21迄)。大きく伸ばされた写真のモチーフは風景、静物、ヌード、ポートレートと多様だが、どれからも共通して感じるのは「静止した生命の一瞬」ともいえる強いメッセージだ。 ここでは展示作品にちなんだコンサートやパフォーマンス、公演、朗読などもあり、意欲的な活動が行われている。秋のビュット・ショーモンを散歩がてら、ここまで足をのばしてみたい。入場無料。(久) |
火水木14h-19h土日11h-19h |
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●Autour d’Andre Breton アンドレ・ブルトンの遺したさまざまなオブジェのコレクションから。 10/23迄(日休)。 パリ9区区役所 : 6 Rue Drouot 9e ●Anders MOSEHOLM (1959-) ●Nan GOLDIN (1953-) ●Alberto SORBELLI (1964-) ●Sally MANN (1951-) ●Manuel Alvarez Bravo, ●L’Italie a la cour de France |
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