●Avant le Big Bang
文学教授と神経外科医の兄弟による記憶に関する本を3月に紹介したばかりだが、今回は、理論物理学と数学で博士号をもつ兄弟の本を紹介しよう。
本書は、空間と時間が誕生したビッグ・バン以前の世界、その「原点」は何か? という宇宙の究極の神秘を解明しようと試みる。これは彼らの博士論文を簡単にして一般読者向けに書かれた本であるが、量子力学、クオークなどという言葉、あるいはハッブル、ホーキングなどという学者の名前をこれまでに一度も聞いたことがないとかなり難しいかもしれない。しかし、『X-File』とか、『ER緊急救命室(仏語タイトルではUrgence)』など、意味がしっかりわからなくても専門用語が多用される物語に惹かれる人はとりつかれるだろう。
本書の物語とは? 今から137億年前の宇宙の誕生への遡り。もっとも問題とされるのは、T=0という「原点」と10(-43)秒後に現れるプランクの壁 −つまり物理世界のはじまり、すなわちビッグ・バン− の間の出来事だ。宇宙の誕生の一秒後から現在は10(17)秒たっているが、その誕生後一秒の地点からビッグ・バンにいたるまでにはさらにその10(26)倍もの時間がかかるという。そして、プランクの壁では宇宙の大きさは10(-33)センチ、だがその重さは10(40)トン。ここまではおそらく定説なのだろうが、ここからがボグダノフ兄弟の画期的な理論だ。ここではその種明かしはしないが、宇宙の始まりは物理学でも量子力学でもなく、「0」がキーワードであることだけ記しておこう。
超新星の観測によって確認された宇宙膨張の加速は、彼らの理論を裏付けすることとなったが、宇宙誕生についての彼らの画期的な理論が今後、新たな観測や他の理論家たちの考察によって証明されるのか、どう補完されるのか大いに興味がわくところである。バカンスの間、夏の夜空を見ながら、宇宙の神秘に迫ってみるのはどうでしょう?(樫)
Igor et Grichka Bogdanov,
Grasset, 2004, 394p., 20 euros