パンという日々の糧を、ファッション界の寵児ジャン・ポール・ゴルチエが扱ったらどうなるか? その答えがこの展覧会だ。 「美術館で回顧展をするのは自分の趣味ではない」というゴルチエは、パンを素材とした作品を展示するというアイデアを展覧会の企画者から提案され、大いに制作意欲をそそられたという。 毎日食べるものゆえ、平凡な食べ物と見られがちなパン。しかし、フランス人は、これなくしては生きていけない。衣も同じで、着るものがなくては人間は暮らせない。パンを素材にしたことで、華やかなファッションの影に隠れた「衣」の本質的な部分を考えさせる展覧会だ。 「自分は芸術家ではなく、パン職人や菓子職人と同じように職人だ」とゴルチエは断言する。パンを素材としたのはその職人気質の表明ともいえる。 お針子さんたちの代わりに制作にあたったのは、フランス最高職人(MOF)の称号を持つ14人と、フランス全土を巡歴して修行する同職組合「コンパニョン・デュ・ドヴォワール」の3人のパン職人。高度な技術で、ゴルチエの意図をみごとに再現している。 パン籠を逆さにした作品では、籠の中にパンが詰まり、すそ広がりのスカートからバゲットがはみ出している。胸の部分は丸いパン。衣も、衣をまとう肉体もパンで表現されている。 楕円形の焼き菓子、ラングドシャを鎖のようにつないで作ったドレスは、このドレスを食べてしまったらどうなるか、とエロチックな想像もさせる作品だ。会場には、「手を触れないでください」のほかに、「食べないでください」の注意書きもある。 地下には、コルセットをつけたマネキンが、ギリシャ彫刻の出土品のように床にごろりと置かれている。素材はもちろんパンだ。焼き方で古代彫刻のような雰囲気を出したのは、パンだからこそできた技といえる。 地下にはパン工房もある。ここで作るゴルチエがデザインしたファッショナブルなパンは、1階で購入できる。紫の着色料が使われているが、黒すぐりと海草で作った天然のものなので安心。売上げは、貧困者のための「レスト・デュ・クール」に寄付される。(羽)
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Fondation Cartier : 261 Bd Raspail 14e 10月10日まで(12h-20h 月休) |
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Galerie Endora 中国人現代作家の作品ばかりを紹介するギャラリーが今年の初めにオープンした。現在はチョウ・ヤンカオ、ユェ・チェンウェン、スン・ヤン、シー・ユンシァンの山水画展が行われている。今まさに活躍中の4人の画家で、特にユェ・チェンウェンは日本でも高い評価を得ている。 古くから伝わる水墨画の技法で、伝統的な「山水」というテーマを現代のアーティストはどう描くのか?時代からくる違いはあるだろうが、紙の上を走る筆の潔さや浸透する墨のにじみから伝わり来る精神性は今も昔も変わらない。 クオリティの高い作品をこれからも紹介していこうというオーナーのアンドレ、ユーチン夫妻。そのこだわりは絵画に留まらず、お茶の世界にまで広がっている。ユーチンさんが産地直送の最高級の中国茶で、伝統的なお茶の楽しみ方を手ほどきしてくれるのだ(予約制)。お湯の中でふわっと羽をのばすお茶の葉、青い香り。新鮮な中国を全身で感じられるギャラリーだ。(仙)
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6 rue de la Tacherie 4e(月休) |
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●Giuseppe PENONE (1947-) 1968年に自分と木との関わりを作品化し、1969年にはアルテ・ポーヴェラ運動に参加。自然と自分自身の精神的な関わりを探究し続けるペノーネの回顧展。60年代から今日までのインスタレーション作品。8/23迄(火休) ポンピドゥ・センター ●Johan Barthold JONGKIND ●Annette MESSAGER (1943-) ●Jozef MEHOFFER (1869-1946) ●新しくなったジュ・ド・ポーム ●Sanyu (1900-1966) |
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