1970年から、ずっとこの家に住んでいるルネさん。6階建ての建物にはたった一人、彼が住んでいるだけで、他の部屋は空っぽだ。以前、洋服会社の倉庫として使われていた建物を、所有者が賃貸アパートにするために改装中。「その間、住人が誰もいないと、よそ者が侵入して住み着いてしまう。それを防ぐために建物の所有者がここに住まわせてくれている」とのこと。外から見ただけだと、たしかに人が住んでいるとは思えない。万が一の闖入者に備えて、ルネさんは手作りアラームを設置した。それが入口の扉を開閉するたびに電子音をたてる。 ものごとがすべてルネさんの望み通りに進めば、建物の改装後もルネさんはここに暮らし続けることができ、50m先に住む9歳と7歳の孫たちの家族も、上階のアパートに入居できるようになる・・・。娘の家族が住むアパートも、所有者が改装をするために、立ち退きを迫られているのだ。 1階と2階にそれぞれ2m×3mほどの部屋があり、それらがルネさん手作りの、幅40センチほどの階段でつながっている。住まいで6m2が2部屋というのは珍しい。日本の古典「方丈記」の “方丈” だって、約3m×3mなのだ。階段も梯子ならともかく、幅40センチの狭い階段はこちらも初体験。 ダンケルクの造船所で溶接の仕事をしていたルネさんは、退職した今でもこの自分の空間で “造船” を続けている。まずはデザイン画、そこから型紙を作り、それに合わせて木の板を切り、組み立てて色を塗る。1階には木の板を切るテーブルがあり、のこぎりなどの道具が数種。2階に上がると、小さな四角い窓に紙を貼って外から中が見えないようにしてある。そこにベッド、その脇に低いテーブルがあり、そこで船を組み立てる。船は出来次第、販売。趣味を兼ねた内職です。(美) 模型の例。船内部には家具が置かれ、室内装飾も施されている。 興味ある方は、”chez Mario”(下の記事参照)まで出かけて直接交渉を。 |
建物の廊下を、完成した船の模型置き場に。
中庭は孫の自転車置き場に。
|
2階、寝室と工房を兼ねた6m2。
|
|
|
|
Chez Mario | |
「35年前から、いつも自分の家か、ここにいた」とルネさんが言う。「ここ」とは、ブルターニュ通りのカフェ “ブルターニュの小さな穴”。ブルターニュ通りにある小さな穴場、と解釈できようか。先代がやはりルネさんといい、「シェ・ルネ」(ルネさんのカフェ)と呼ばれ親しまれていたが、彼が2003年4月に亡くなった後、北イタリア出身のマリオさんが跡を継ぎ、今では「シェ・マリオ」と呼ばれている。バーカウンターには先代のころからの客の面々、イタリアン・コネクションで新しく常連になったと思われるイタリア語を話す人たちが朝から晩までぎっしり。壁には先代のルネさんの写真や、家を見せてくれたルネさんがツール・ド・フランスに参加した時の写真も貼ってある。牛ステーキ、エシャロット添え(Bavette a echalotte)8ユーロとボルドー1杯2ユーロ、マリオさんと客たちの会話を聞きながら、楽しい昼食を。コーヒー 1.40ユーロ。(美) |
*Au Petit Trou de Bretagne (chez Mario):14 rue de Bretagne 3e 01.4277.2066 日曜午後と月曜休業 |