佐藤利成さんはパリ在住のアーティスト。東京芸大の学生だった80年代、アートの領域まで外国のコピーが氾濫する風潮に疑問を持つ。まずは自分が生まれた日本がどんな背景を持っているかを知るのが先と、茶室特有の小さな出入り口「躙(にじ)り口」の制作に没頭する。何度も形を変え進化を遂げた作品を通し祖国を見る目を養った彼は、こうして外の世界へ踏み出すための足場を固めていく。
大学院生の時、ヨーロッパの美術館を巡る。ルーヴル美術館では親切な館員のおかげで、ダ・ヴィンチのデッサンを手に取って見る幸運に恵まれる。また東京のギャラリーではダニエル・ビュレンのアシスタントをしたりと、徐々にフランスが近しい国と感じられるようになる。そしてグルノーブル美術学校教師J・L・ヴィルムートの推薦と、奨学金を得たことで93年渡仏を決意する。
グルノーブルでは、世界中の人が集うキャンパスで毎日がサプライズの日々。エネルギーみなぎるまま、「思ったことは全部やろう」と、立体、写真、ビデオとさまざまな表現方法で突き進む。卒業後もバンコクと東京での個展、エルサレムのビエンナーレ、チューリッヒでのグループ展、フランスにおけるパブリックプロジェクトの参加と積極的に活動。そして時期が熟し、今年フランスでようやく初個展を開催した。イヴリー市のル・クレダックアートセンターで展示された「SEE THE WORLD FROM RABBIT HOLES」は、写真と紀行文で成り立つ連作。暗闇を走る光の筋は、ふだんはアクセス不可能な世界の隙間へと誘う。本作品は、佐藤さんにとって大きな転換点ともなった。
「アイデアではもう仕事をしない。(表現を操作するのではなく)現れたものを見て、感じとる。まるで作品から僕が教えてもらっている」。10年来のホームグラウンドである第二の祖国フランスへ、アーティストとして彼が送る回答がここにある。(瑞)
*http://rabbit.hole.free.fr(2004年1月より佐藤さんの作品が見られます)