高齢者に冷たいフランス。

 8月上旬からフランスも1947年以来の猛暑に加えパリなどは光化学スモッグに覆われ、8月1日~15日、自宅や介護施設、病院での脱水症状による死者は8月末までの統計で11,435人。80%は75歳以上の高齢者だ。最高気温47.3度を記録したポルトガルでの死者は、2週間で約1300人。この差はどこからくるのか。
 高齢者や障害者を除く国民の大半がグランドバカンスに出、シラク大統領夫妻はカナダに、ラファラン首相はアルプスに、マテイ厚生相は南仏の別荘に。猛暑による大量死者の惨事は、大統領や首相とっては不在中に起きた「予期せぬ震災」? 厚生省から内務省(南仏の山林火事で忙殺)、環境省(原発の温度を下げるため外壁にホースで水をかけるのに大わらわ。河川への高温廃水を認可)まで、末端組織からの警報がばらばらだったため、首相も厚生相も緊急事態を早期に把握し、対処することができなかったのか。
 連日、消防署の救急車はいつもの3倍の出動回数を記録し、脱水状態の高齢者を次々に救急科に運び入れ戦場さながら。病院は看護婦や医師の半数が休暇中。そのうえ35時間制のため人手不足、床数も不十分。ほとんどの病院が手術室しか冷房設備がなく、脱水状態の瀕死の老体が廊下にまではみ出した。死者の30%は病院で、50%は施設で、20%は都市・郊外の一人暮らしの高齢者で、死後数日後に自宅で発見された遺体もかなり多い。
 病院及び警視庁の遺体安置室も満杯、ランジス中央市場の冷蔵倉庫に約1600遺体、パリ南郊外工業地帯に10台の冷凍車、冷蔵テントにも遺体を保管。パリ市は保管期間を6日から10日に延長し遺族に遺体引き取りを求めたが、9月3日、遺族に無視された57遺体は”無縁仏”として、市によって郊外の共同墓地に埋葬された。
 どの先進国も高齢社会の上り坂にある今日、フランスには60歳以上は1200万人、85歳以上は120万人(10年後には240万人)いる。94.5%は在宅、5.5%は施設や病院に。施設は全国に約1万あり費用は月額1220~4000euros。ファルコ高齢者担当政務次官によれば、施設の80%は人員不足、20%は設備改善が必要、5%は老朽化が進み閉鎖されるべき状態にあるという。
 こうした介護態勢の遅れに目をつぶり、大統領の減税公約の実現を急ぐあまり、今年度ラファラン内閣は施設への援助金1億8千万eurosを8千万eurosに半減し、01年施行の高齢者自立手当(APA)受給者の所得上限を949eurosから623eurosに下げている。

 1万人以上の高齢者の死によって政府は初めて彼らの存在に気付いたかのように、ラファラン首相は高齢者対策資金捻出のためドイツにならって、労働者に宗教祭日の1日(聖霊降臨祭翌日連休の月曜lundi de Pentecote?)を返上してもらい、1日分の社会保障額を高齢者対策にまわすという窮極(?)の策を発表。しかし労働組合が同意するかどうかだが。

 財政工作はどうにもなるだろうが、死後も個人主義が守られ、親や祖父母の遺体を引き取る義務のないフランスでは、まず “敬老の日”を設けることから始めるべきなのかもしれない。 (君)

60歳以上1200万人 (全人口の20%)
1150万人 在宅者(女性80%)
1000施設 公営50%-市民団体27%-
私営23%

68万床 施設の総合床数
30万人 職員数
0.4人  要介護者1人当たりの職員数*
*英国:要介護者1人につき職員0.8人、スイス:1.2人。
(Le Figaro : 8/22、 Libération 8/26)