19世紀に精神医学が生まれて以来、フランスで初めて6月5 – 7日、モンペリエで、精神科医から精神・心理分析医、カウンセラー、看護婦、ケースワーカーまで約 2千人を集め《精神科医療三部会》が開かれた。ル・モンド紙の報道によると、この20年来、精神科医療の削減政策が進むなかで同三部会は、多様化する現代”社会病”への対応能力の減退に対し、国に、国民に訴えるための集会だという。 60年代以降、英国を初め欧米諸国が精神病院の開放主義を掲げ、精神科医療の ”地域化”を進めていったように、フランスも1960年に”分区制”(sectorisation)を設けた。全土を人口約7万人の区画(全国で成人用829区画、子ども用321区画)に分け、各分区に精神衛生相談所とデイケアセンターを設け、社会医療チームを配備した。 以来、地域化に拍車がかけられ1970年から2000年までに厚生省は一挙に12万5千の精神病床を削減、精神科の老朽病棟を改造するより解体し慢性期患者用床数を激減させた。が、それに代わるデイケアや急性期患者の受け入れ施設はその 10分の1を新設したにすぎない。 今日、精神科のケアを受けている精神病者は約400万人にのぼり、そのうち約150万人は公立病院・施設で、約200万人は私立病院や町の精神科医のケアを受けている。全国に1万2500人の精神科医がいて、人口10万人に対し精神科医の数は23人と、フランスはスイスに次ぎ精神科医が多いといわれているが、2020年には現在の半数に近い約7500人に減る見込みだ。 19世紀から精神科医が治療にあたった精神病やヒステリー、アルコール依存症。60年代以降は仕事や家庭問題からくる神経症や抑うつ病。90年代以降は適応症や不安神経症、青年期の拒食症や分裂病、麻薬中毒、そして爆弾テロに巻き込まれた被害者や被虐待者の心的外傷…と、現代の”社会病”は急増しつづける。 ル・モンド紙のインタビュー記事の中で、三部会科学委員会のボコブザ会長は「精神科医療態勢の欠陥は、精神病者を社会不適応者(ホームレスや拘留者)として片付けるか、アングロ・サクソン式に薬漬けにするかのどちらかに導く」と、フランスの精神科医療が直面している危機を訴える。そして神経科と精神科、病気と病者がますます混同され、病者も精神科医もたやすく薬に頼る傾向が強まり、時間と費用のかかる臨床心理・精神療法がおろそかにされつつある、と指摘する。フランス人の抗うつ剤や鎮静剤の利用率が世界一高いのもこの情況を反映しているといえる。 60年代以降、米国で進められた精神病者の「脱入院化」は大都市に彼らを吐き出しホームレスにした。フランスのホームレスや拘留者の何割かは精神病者といわれている。彼らは減少する入院対象からはみ出した人たちといえる。上記三部会が叫ぶ危機感には、深刻な社会・倫理問題も含まれていることがうなずける。(君) |
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