「抽象」と「具象」という括りで年代順に4期に分けたニコラ・ド・スタールの回顧展。しかし4期の境を定める定義にははっきりしない部分がある。また、「ミディ地方の光」(南仏の光)から生まれた作品群で終わっていることで、この分け方が妥当ではないことがわかる。これは、抽象に向かって抵抗している一人の画家の悲劇的な姿を歴史に塗り込めようとする、この回顧展主催者側のもくろみのようにも思える。ここではド・スタールは、誰も答えを出せなかった「抽象と具象の関係」についてや、制作を続ける過程で突き当たる「進歩と後退」の間で揺れ動くモデルニテ/現代性のヒーローなのだろう。 彼はモダンな手法—こてやナイフを塗装工のように用いる—で、セメントを思わせる絵の具のグレーを感性で表現している。労働者(塗装工)と画家を区別しないというアイデアは、芸術を特殊化することを拒もうとするモデルニズムの核心である。 わざと不都合な道具を使うことから生まれるぎこちなさと、色、フォルム、コンポジションへの明敏な反応と執拗なこだわりがド・スタール絵画の特徴だ。このフォルムのバリエーションの少なさで、どのように顔料に感性を与えられるのか? 描き方を限定することで生じる困難にこだわるというちょっとしたユーモア。例えばリンゴや競技場のモチーフでは、どのように丸い形をこてで表すか? この技術で動きをどう具体化するか? 彼の仕事には、まず最初に去勢を施してしまうという不条理さや滑稽さが満ちているといえるのではないだろうか? 抽象論を超えてド・スタールは形にかせをはめ、色やコンポジションに感性を集中させ、最後期に見られる苦悩にではなく、形体のマニアックともいえる厳格さへ没頭していく。 この回顧展では、特に墨で描かれたデッサン作品がたくさん観られるのがいい。素材と絵画空間への繊細な感性を持ち備えているド・スタールの作品は、我々に鑑賞者としての感受性の扉を開く力を与えてくれる。(春敏/訳:麦) |
ポンピドゥセンター : 6月30日迄(火休) www.centrepompidou.fr |
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Ugo Rondinone “ROUNDELAY” ウーゴ・ロンディノーネ。64年生まれ、スイス人。ビデオ中心のマルチメディアアーティスト。当センターの最新コレクション「ラウンドレー」(Round+Delay)は、モニター6台を6面で囲んだインスタレーション。パリのボーグルネル街の人陰のない空間に二人の人物が映し出される。この主人公達は二つのアングルから同時に撮られている。足下に気を取られ、顔が硬直しているこの二人の通行人の心理を読むことは不可能だ。つまり登場人物を非人格視しているということが重要だ。 スローモーションの映像は、空間の精神性、抽象的な状況を想起させ、幻覚のような世界を創り出す。 主人公たちは空虚に満たされたこの場で亡霊となる。動き続ける空間が、建築と人は非個性であることを訴えている。「場」そのものが存在になって歩いている。 出会いそうで出会うことのない二人の主人公は、いつか身体を触れ合うことを、あるいはこの遊夢の場が存在し続けることを願っているのだろうか…。 逆行したり、不均整だったり、時間差をもって映されるイメージで、全体が捉えられなくなる、断片のプロジェクション。(J.T./訳:麦) |
ポンピドゥセンター : 4月28日迄(火休) |
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●Kasimir MALEVITCH(1878-1935) 1913年頃ロシアに現れた絶対主義。その指導的人物マレヴィッチの作品展。具象芸術の伝統的図解法を拒否し、直線に基づく幾何学的な形で自然の混沌に対する人間の精神の優位を象徴した。4/27迄 パリ市近代美術館 : 11 av. President-Wilson 16e(月祝休) ●Philippe STARCK 25年にわたるフィリップ・スタルクのデザインワーク。5/12迄 ポンピドゥセンター(火休) ●〈Trajectoires du reve —du romantisme au surrealisme〉 ロマン主義からシュルレアリスムへ、夢と現実の境界を行き来する詩人たち、ノバーリス、ネルヴァル、ユゴー、ブルトンらの自筆の原稿と、彼らの世界を共有するエルンストのフロッタージュやブラッサイの写真など、資料、造形作品200点を展示。6/8迄 Pavillon des Arts: Les Halles, Porte Rambuteau(月祝休) ●Marc CHAGALLE(1887-1985) シャガールの1907年から1985年までの作品179点を集めた回顧展。キュビスム、絶対主義、シュルレアリスムなどの影響を受けながら、独自の世界を築く。ユダヤ人であるためにロシア革命時にはフランスへ、第二次大戦時にはアメリカへと亡命せざるを得なかった彼の、ユダヤの民俗的モチーフからメシア思想へと広がる作品の表現の豊かさを再発見。6/23迄 グランパレ(火休) ●Thomas BRUMMETT(1955-) 植物の生そのものが滲むようなフォト・シリーズ。アメリカ人トーマス・ブルメットのヨーロッパ初の個展。写実を超えた写真作品。5/17迄(日月休) Galerie Karsten Greve: 5 rue Debelleyme 3e ●Raoul DUFY(1877-1953) 膨大な数の作品を残したデュフィ。フォーヴィスム、キュビスム時代の作品と晩年の水彩画を展示。6/16迄 Musee Maillol: 61 rue de Grenelle 7e(火休) ●〈Michel-Ange, les dessins du Louvre〉 『ピエタ』や『十字架にかけられたキリスト』の習作など、ミケランジェロのデッサン60点を展示。6/23迄 ルーヴル美術館(火休) ●Bertien VAN MANEN(1942-) 上海、北京、小さな村々。共産主義社会を背景に、都市と農村の文化が入り交じる中国の日常。1997年から2000年に撮影されたルポルタージュ写真。オランダ人女性フォトグラファーの作品。5/18迄 Centre photographique d’Ile-de-France: 107 av. de la Republique 77340 Pontault-Combault 01.7005.4983 (東駅からSNCFでEmerainville駅下車) |
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