シュルレアリストのルネ・マグリット(1898-1967)を、現代芸術の概念をもたらした理論家として焦点を当て、1925年から1967年までの絵画、コラージュ、オブジェなど約100点を展示。 1920年代ブリュッセルでアヴァンギャルド・アーティストだったマグリットは、デ・キリコやダダ、シュルレアリストたちに衝撃を受け、異質な要素を並列した作品や、不安な非日常的情景を演出する作品を描き始めた。1927年から1930年にかけてパリ郊外に在住。アンドレ・ブルトンやダリなどシュルレアリストたちと密接に交流。この時代に、独自の理論に基づいて独特な作品を展開し始めた。それは「描かれたもの」と「実物」との関係や、言葉と言葉が持つイメージに疑問を投げかけるというものだった。 〈Le Miroir vivant/生きた鏡〉(1928)は、黒地に浮かぶ4つの白い雲状のものに「爆笑する人」「地平線」「たんす」「鳥の鳴き声」の文字が記されている。〈Le Sens propre IV/本来の意味IV〉(1929)は、「悲しい女」と記された額縁が壁に立て掛けられているという絵だ。また〈La Trahison des images/画像の反逆〉(1929)では、描かれたパイプの下に「これはパイプではない」と記されている。 ベルギーに帰国した30年代以降は、描かれたものと言葉がちぐはぐな〈La Clef des songes/夢の鍵〉(1935)、チーズの絵を実際にガラスケースに入れた〈Ceci est un morceau de fromage/これはチーズである〉(1936)などの作品へ発展していく。「意味するもの」と「意味されるもの」の関係という言語論的発想は、第二次大戦後の芸術の潮流、特にポップアート、コンセプチュアルアートなどに確実に影響を与えていく。 戦中戦後、硬直しつつある自分のスタイルを振り払うかのように印象派風に作風を変えた4年間があった。が、それ以降のマグリットは、素材や重量などを変質させた物質世界に、謎めいたタイトルを与えるという作品を次々と制作する。本質的には戦前と変化はないが、縦横無尽なアイデアは素晴らしい。美術界で地位を確立し、暮らし向きも良くなった小市民的な自分を皮肉るかのように、山高帽とグレーのスーツの自分自身を記号化して作品に取り込んだマグリット。新たな概念を示しはしたが、自らの理論に閉じ込められてしまったような山高帽の男は、どこか悲しげだ。(水) |
*Galerie nationale du Jeu de Paume: |
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Steve McQueen展 ロンドン生まれのスティーヴ・マックィーン(1969-)は、90年代初頭から映像作品をつくってきた。彼の近作3点(いずれも2001年作)と、エキスポのために制作されたフォトプロジェクション<Once Upon a Time>を見ることができる。 マックィーンのテクニックはシンプルだ。対象に意識を集中させるクローズアップ。故意に技巧を避けるような荒々しい画面。その中に予想不可能な偶発的ディテールまでを逃さずに捕える。 ホテルのベッドに横たわる自分をテレビから流れる光とビデオカメラに撮影を委ねた<Illuminer>。偶然に弟を殺してしまった青年の声を彼の頭頂のフィックスショットに重ねた<7th November>。<Once Upon a Time>は、1977年にNASAの宇宙探査機ボイジャー1号が異星人へのメッセージとして宇宙空間へ放った116枚の人類の写真を、グロッソラリア(舌語り/誰もが理解できるとされる言葉。言語を超えた言語)にのせてスクリーンに投射するインスタレーションだ。 最も印象的な作品は、ミュージシャンTrickyのレコーディング中の映像<Girls Tricky>。徐々に日常世界から遠ざかるミュージシャンをごくそばで捕えている。シンプルだが忘れ難い。 「過去でも未来でもない。死でも生でもない。その中間、模糊とした領域に興味がある」というマックィーン。彼の映像は生き物のようにうごめく。(仙) |
パリ市近代美術館: 11 av. du President |
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●<Format> テレビやコンピューターのモニターで不安を暗示するEric Baudart、ポロックのドロッピングをキャンバスに再現するSimon Morettiなど、4人のアーティストによる作品展。3/8迄(日月休) Galerie Chez Valentin: 9 rue St-Gilles 3e ●Alexey Titarenko(1962-) 昨年のアルル写真フェスティバルで注目されたロシア人フォトグラファーの作品。サンクト・ペテルブルグの街の空気までが写し込まれたような光と影の間の世界。3/15迄(日月休) Galerie Camera Obscura: 12 rue Ernest-Cresson 14e ●Francis PICABIA(1879-1953) 人を引きつける強烈な個性と、皮肉で暗いペシミズムを合わせ持っていた、ダダイストの中心的存在、ピカビアの大回顧展。3/16迄(月休) パリ市近代美術館: 11 av.du President-Wilson 16e ●Douglas GORDON(1966-) 暗闇の奇妙な星形の空間の中で19世紀スコットランドの作家ジェイムズ・ホッグの『義認された罪人の告白』が朗読される。90年代から注目され続けているGordonが今回のエキスポジションのために制作したインスタレーション作品<Black Star>。3/22迄(日月休) Galerie Yvon Lambert: 108 rue Vieille-du-Temple 3e ●Michel POTAGE(1949-) 花火のように輝く爆撃の光は死をもたらす火。<Flowers of Wars/戦争の花>と題するタブロー展。3/29迄(日月休) Galerie Lelia Mordoch: 50 r. Mazarine 6e ●<Epouvantables Epouvantails!> アーティストたちがつくる案山子とは?17の案山子がパリのギャラリーに集合。4/12迄(日月休) Galerie Fraich’Attitude: 60 rue du Fbg Poissonniere 10e ●Jan FABRE<Sanguis/Mantis> ダンスや演劇の創作、振り付け、演出、舞台美術で著名なベルギー人ヤン・ファーブル(1958-)は造形作家でもある。昆虫の生態からインスピレーションを受けた3点の立体作品と、1978年から2003年にかけて制作された血液などで描かれたデッサンを展示。4/19迄(日休) Galerie Daniel Templon: 30 rue Beaubourg 3e ●<Black Out> 現代日本を描写する約200点の写真を展示。4/21迄(日月休) 日本文化会館: 101bis quai Branly 15e |
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