ジェラール・フィリップ、ジャン・ギャバン、ジャン・マレー…銀幕でスターが最も輝いていた時代に、映画配給をしていただんな様とともにパリに訪れるようになったという李王女(リー・オクニュー)さん。日仏間を行き来するうち、いつしかパリに居を定めるようになった。約40年前のことだ。「花の都と聞いていたのに、最初は町が暗くて静かでがっかりしたの」。だが歴史と芸術の豊かさに親しむうち、次第にフランスの生活に溶け込むようになる。 間もなくだんな様は、当時パリでほとんど存在していなかった和食レストランを開店させた。場所はあくまで芸術とゆかりの深いモンパルナス。まだ幼かった息子さんたちを育てながら李さんも一緒になって働いた。 だがそれから数年後、だんな様が難病にみまわれてしまう。体の自由がきかない夫の傍らで付き添い介抱する日々が長らく続く。そんな折り、李さんの姿を見かねた息子さんのお嫁さんが、「お父さんの側ばかりにいないでたまには外に出てみたら?」と、日本人会にあるシャンソン教室の存在を教えてくれたという。 最初は人前で歌うことに少々抵抗があったという李さんも、「詩を書いた人々の感情をフランス語で味わう喜び」に徐々に目覚めていくようになる。お気に入りの歌手はレオ・フェレ、ジャック・ブレル、ゲンズブールなど。気が付くとシャンソンを習い始めて12年。 現在では5人の息子さんに加え、数多くのお孫さんたちに囲まれ賑やかになった。ミッシェル・モルガンと同い年だという彼女。今月はパリで歌の発表会も開かれる。艶やかな彼女の歌声は、だんな様のいる天国にもきっと響きわたることだろう。(瑞) |
*Soiree de chansons(李さんの歌の発表会)は、2月1日19時半~、入場無料。 |