PEIGNE-CUL
フランス語の話し言葉には、相手をからかったり、バカにしたりするときに使われる、否定的な意味合いの形容語がたくさんあります。”pétasse”、”péteux”、”pequenot”、”plouc”、”petzouille” など、これらの形容語は音声的効果が大で、クロード・デュヌトンが『フランス語話し言葉ガイド』*の中で指摘しているように、言い争いの時にはすぐれた武器になります。”peigne-cul(尻用の櫛)”というのは、けちくさく、ろくでなしで、時には卑劣でもある人のこと。ということは、フランス語の話し言葉によれば、けちくさくなるためには、まず尻に毛が生えなくてはいけないことになりますね。こんな言い回しがあるからといって、すべての美容師がけちくさいなどと信じ込んではいけません。
* Guide du français familier (éditions du Seuil, 1998)
「なんだって?
ただのおしっこだろ」
動物は別に下品ではありません。ところがフランス語の俗語では、「俗」以下の扱いを受けたりします。人間の友ともいうべきイヌですら、”Sale chienne!” と使われ、”Salope!(あばずれ女)” と同じ意味になってしまいます。ネコ chat はというと、 “pleuvoir comme vache qui pisse”に近い言い回しがあります。「ウシがおしっこをするように降る」が、多量の雨を意味するように、ネコのおしっこは、”C’est rien, c’est du pipi de chat! Tu vas pas en faire une maladie?(なんてことはない。ネコのおしっこさ。くよくよすることはないよ)” のごとく、すごい量のわりには、つまらないことを意味します。
ETRE DANS LA MERDE
下品さとスカトロジーを代表する物質である〈糞〉は、ひんぱんに話し言葉の中に登場します。”merde” という単語は、これだけで、あるいは”et” を伴い、嫌悪感を示すためにフランス人がいちばんよく使う間投詞です。”Et merde! On a plus d’essence…(クソッ、ガソリン切れだ)”。この単語を使う言い回しがたくさんあるからといって、ビックリしてはいけません。”etre dans la merde(クソにつかっている)”というのは、とても困った状態にいることを意味し、時には首までつかったりします。これよりひどくなると “etre dans une merde noire” 。形容詞には “merdeux” や “merdique” があり、”elle était merdique sa soirée, t’as eu raison de ne pas venir.(あいつのパーティーはひどかった。君は来なくて正解だったよ)”のように使います。もちろん動詞もあり、その代表選手は “s’emmerder” で、 “Elle était bien cette soirée? – Non, je me suis emmerdé(パーティーはよかった? ちっとも。退屈しちゃった)” という具合。「助けてくれ! ウンコにどっぷりだあ!」
“se casser la tête(頭をくだく→頭を悩ます、大いに力をつくす)” という表現は、多分ご存じですね。 “se casser le
cul(尻をくだく)”はそれとまったく同じ意味で、確かに下品とはいえ、ずいぶん前から、すっかりふつうの表現になりました。同じような言い回しは、はるか昔にも、方言やオッ
ク語の中に見つけることができます。 “cul”(尻、ケツ)という単語は、簡潔で発音しやすく、そこから連想するイメージもわかりやすく、いくつかの表現があります。たとえば “Se bouger le cul(尻を動かす→急ぐ、グズグズしない)”は、椅子やアームチェアにどっしりと腰をおろしているイメージ、ちっとも動かない現状維持のシンボルにもなっているイメージが、出発点です。逆に大した理由もないのにせかせか急いでいると “avoir le feu au cul(尻に火がついている)”。