前代未聞の映画が出現した。 “Blissfully yours”

 タイのアピチャッポン・ウィーラセタクン監督、『BLISSFULLY YOURS』は驚きの映画。すごーく変! 冒頭は女医さんの診療室。ここにいる3人、皮膚病患者で言葉を発さない青年、彼に付き添う若い娘と中年のオバサン、3人の関係が分からない。その後の彼らの行動も、何のために今それをしているのか分からないことだらけ。つまり映画が何処をめざしているのか皆目見当がつかない。「???」が頭を駆けめぐる。難解というのとは全然ちがう。一つ一つのシーンは妙にインパクトがあって面白くてじっと見入ってしまう。「???」を抱えながら…。で、小一時間もたつころにのけぞるようなことが…突然ボサノバにのってタイトルが流れ始める。そうだ、我々は映画の頭のクレディットをまだ観ていなかった! 
 このタイトルにのって、例の娘が例の青年を助手席に乗せた一台の乗用車が疾走する。そしてどんどん森の中へ入って行く。ウォン・カーウァイの『欲望の翼』を思い出す。途中で車を捨てた二人は今度は歩いてもっともっと森の奥へグイグイ進む。目的は…? 一方で、例の中年のオバサンは、若いツバメと情事を堪能している。ツァイ・ミンリャンの世界を思い出す。このオバサン女優の大胆さに度肝を抜かれていると…。
 このころもう我々は、次を読もうとする映画の見方は放棄して、映画の時間の流れの中に身を投げている。とってもスキンシップな映画で、汗ばむ空気感、水辺の涼感、肌が触れ合う感触、映画の中で起こっていることを、頭ではなく体で感じる。その果てに、セックスの後の安らぎと生きていることの悲しみを併せ持ったような気だるさが残る。そんな映画なのだ。凄い! 前代未聞の映画の出現。監督は実験映画の出身、大物だ! (吉)