大統領選挙、総選挙とシラク派の圧勝と引き替えに国民が右派政権に白紙委任した治安・非行少年対策に、ラファラン内閣はブレーキなしの抑圧態勢に突入。 7月には、憲兵・警官合わせて約1万人の増員や拘置所の増設(1万1千人増)、そのための5年間にわたる56億ユーロの特別予算を発表。そして大半の国民がバカンス中にあった8月3日、国民議会は大統領与党連合(UMP)の独り相撲で、少年法(45年)と「推定無罪」の原則を形骸化させ、非行少年の更生よりも処罰を目的としたペルバン(法相名) 法を可決した。 まず10歳から処罰の対象とし、10歳~13歳の非行少年にはある一定の場所への出入りを禁じ、公民教育の実習を義務付ける。さらに13歳~18歳の少年または親が教師を侮辱した場合、「公権力受寄者侮辱罪」として懲役6カ月+7500ユーロの罰金刑を科し、罰金刑だけの警察官への侮辱罪との違いをもうけている。そして13歳~16歳で少年鑑別所後、養護施設に送られた少年がそこから逃げ出した場合や施設の規則に背いた場合は一時勾留するなど処罰を厳重にし、サルコジ内相いわく「青少年非行を潰していく」かまえだ。 それだけではない。養護施設に送られた少年の家族への家族手当の支給を停止し、子どもの非行の責任を経済的制裁で親に負わせようとするもの。人権擁護連盟チュビアナ会長は、「これらの処罰法は、欧州人権擁護憲章に違反するばかりか、経済的社会的に落伍者の烙印を押された貧困家庭に向けた処罰以外のなにものでもない。家族手当を停止することで経済的に恵まれない家庭を二重に罰することになる」と激しく批判している。 しかし、現実には毎年約4千人の未成年者が拘置所に送致されている。ルモンド紙によれば、94年の統計だが、出獄後未成年者の77%は5年以内に、40%は 3カ月以内に再犯しているという。まさに「拘置所は犯罪の学校」と呼ばれる所以だろう。ペルバン法は、一筋縄ではいかないこうした少年非行化社会に向けて処罰をエスカレートさせ、非行少年だけでなくその家族をもがんじがらめにしていく抑圧的処置といっていいだろう。そして、これからは「近在の素人裁判官」(3300人)が各地区に配属され、日常のいざこざや軽犯罪を処理していくらしいが、社会の反動化の一翼をになうのでは。 が、もうひとつ憂慮すべきことは、容疑者からの復讐をさけるためというが匿名による密告制の一般化だ。昨年11月に敷かれたテロを対象とする密告制は、懲役5年以上の重罪に対してだったが、これを懲役3年以上の軽犯罪にも適用することだ。生徒から暴行などの被害を受けた教師も匿名で容疑者を警察に密告できるわけである。教師が生徒を密告し警察に引き渡すことが治安にむすびつくとしたら、なにかが短絡してはいないか。顔を隠してならだれでも密告できよう、そこにはなんら責任がともなわないのだから。 9・11以降、米国ではテロに関する密告制度が定着しはじめているようだが、ラファラン政権は非行少年を取り締まるがゆえにフランスにも「密告社会」を導入しようというのだろうか。(君) |
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非行少年の家庭に家族手当給付停止 |
