ヴァラス噴水。
1870年、英国人のリチャード・ワラス(ヴァラス)氏は、巨額の遺産を相続する。ナポレオン3世下、プロシアとの戦争に敗れたばかりで、パリ市民の生活条件は厳しかった。水の配給もままならず、芸術とフランスを愛するワラス氏は、パリ市民に、飲用に適した噴水を50カ所に据え付けることを申し出る。
1872年夏に最初の噴水がお目見え。現在、ヴァラス噴水Fontaine Wallaceは、パリ市各区に77存在しているが、広場や通りの角など遠くからでも目立つところに置かれている。鋳鉄製で、メトロの入口や公園のベンチ同様に緑色にペイントされている。いちばん普及しているモデルは、古代やルネサンスの彫像を模したワラス氏自身のデザインで、高さ3メートル、噴水を囲む4体の彫像は、それぞれ、純朴、善意、節酒、慈善を表している。
水を追ってフランス一周。
フランスで、ミネラルウオーターのない地方はないといっていい。そこで、名所やおいしいもの目当てではなく、水目当てだけで旅行することもできる。あなどってはいけない。ミネラルウオーターは、それぞれ異なった風味があり、名物料理の味を引き立てることもできるからだ。
たとえば、アルデッシュ地方にあるヴァルス・レ・バンVals-les-Bains。セヴェンヌ山塊の若い火山に囲まれた盆地にあり、発泡性ミネラルウオーターに最適の地の利を有している。1602年から瓶詰めにされていて、現在は、5カ所で泉が開発され、それぞれ固有の特性を誇っている。ヴァルス・レ・バンは、その泉のおかげで、この数世紀の間に、糖尿病などの病気にきく温泉地として名をとどろかすようになった。毎年、2500人が治療のためにこの町を訪れる。ここから数キロメートル、アイザックAizacという火山の麓に同名の村がある。ここでも火山から湧き出る泉を開発しているが、素晴らしい水で、この地方のレストランで味わうことができる。クリの木に囲まれた山道をたどりながら、火山の頂を目指すのも、楽しい思い出になるだろう。
やはりヴァルス・レ・バンから遠くないところにあるアスペルジョックAsperjocには、ラ・レーヌ・デ・バザルトという泉がある。アスペルジョックは山腹にある美しい町で、ミネラルウオーターというよりは医薬品を思わせるラベルを持ったラ・レーヌ・デ・バザルト同様に、少しも変化をとげなかったような印象を受ける。近くのヴェルネVernetでは、消化にいいという水が1874年から商品化されている。そこから数キロ、アルデッシュ渓谷の「悪魔の橋」から遠くないところにはメラスMeyrasという村があり、ペストランの泉を見学できる。
太陽と静けさと自然が好きな人は、パリから630キロ、TGV(ヴァランス駅かモンテリマール駅)あるいは車(高速7号線)で、ヴァルス・レ・バン地方へ。
「水」を勉強したい人は…
●Le guide du buveur d’eau.
Emmanuelle Evina. Ed Solar. 16.61€
ミネラルウオーターの歴史に始まり、水の含有物、飲み方で気をつけたいこと、妊婦や子どもと水の関係、肌への効果、などがていねいに書かれている。
後半は50種以上のフランスのミネラルウオーターについてのガイドブックになっている。
それぞれの特性や効能が詳しく記述されているので、この一冊さえあれば、自分に適した水が選べそうだ。
●Le livre des eaux minerales.
P.Delsol, J-C Lambard. Ed Dauphin 14.94€
●Eaux Minérales. Le guide de l’amateur.
Jean-Francois Dormoy. Ed Soline. 22.87€
カラー写真豊富な大判のミネラルウオーター本。
フランスだけに限らず、英国、イタリア、スペインなどのミネラルウオーターも紹介され、見ているだけで、のどが渇いてくるようだ。
●http://www.aquamania.net/
フランスおよび世界のミネラルウオーターに関するサイト。ラベルのコレクションが楽しい。
水とその歴史についての詳細な百科サイト。
パリ市の水道を知るのに便利。
パリ市の泉と橋についてのサイト。
●http://membres.lycos.fr/savoy/
「ヴァラス噴水」についての博士になれそう。