「あーもう、うんざり!せまい!」と空中に発せられる不満のことば。そんな言葉も、すぐに壁にぶつかって自分に跳ね返ってくるような12m2の部屋がシルヴィアさんの住まいだ。一般に〈chambre de bonne 女中部屋〉と呼ばれる小さな部屋は、ブルジョワ家庭が使用人を住まわせるために同じ建物の最上階に設けたものだが、今は、低家賃の物件を求める学生などに貸されることがほとんどだ。シルヴィアさんの部屋は1階に住んでいる人の所有物だ。 ここは瀟洒な建物が並ぶ15区の住宅街。人通りのまばらな通りから建物に入ると、豪華な玄関ホールの壁には手の込んだアール・ヌーヴォー調の花模様。彼女の部屋がある4階へと階段を登っていくと、少しずつ様子が違ってきて、やがて廊下の一角にあるトイレに出会う。これは同じ階に住むふたりの隣人との共用トイレだ。 コロンビアはボゴタ出身のシルヴィアさん、最初はこの12m2の部屋の小ささに驚いた。(でもこれで驚いてはいられない。女中部屋と呼ばれるものには、9m2、6m2なんてものまであり、それでも家賃は300ユーロくらいはするものだ)でもアパート探しの難しさと、研修先のユネスコがすぐそばだったことからここに決めた。 シルヴィアさんは、ジュネーブで学生時代に出会ったボーイフレンドと、実は昨年11月に結婚したばかり。お相手のベルトラン君はスイスとの国境に近いオート・サヴォワ県のマルナ村に住んでいる。「紛争がある国でどのように文化活動をすすめるか?」をテーマにDESS(高等教育専門研究証書)を得たシルヴィアさんは、職業経験を積むため、いとしいベルトラン君をマルナの広い家に置いて、新婚早々単身でパリに乗り込んだのだ。コロンビア大使館でフランスとコロンビアのアーチスト交流、自分の協会も発足させ、秋にはパリの郊外サン・トゥーアン市の若者とボゴタの郊外へ行くプロジェクトを実現させたり、とフル回転。 「こうして経験を積んでいけば、ジュネーブにある国際機関で職が得られるかも。そうすればジュネーブまで35キロのマルナに夫婦揃って住めるかな・・・」。30歳女性の単身赴任は、5年先を見据えての賢い根回しだった! ラパンちゃんことベルトラン君とは2週間に1回の割合でマルナ-パリ間、6時間の距離を行き来して会っている。 小さい女中部屋から、秋には郊外の2間のアパートに引っ越すことが決まって、少しほっとしている様子のシルヴィアさんだった。(美) |
洗面台を使わないときは、板をおろしてテーブルに。電気コンロを使ってコーヒーを入れてくれた。
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〈世界のポエム〉訪問。
シルヴィアさんに「ブルジョワ過ぎるから近所は利用しない」と言われて、この欄に何を書こうかと困った。「以前通っていたユネスコはどう?」と聞くと、ユネスコのサイトの中の〈世界のポエム〉 へ案内された。 彼女は、故郷で文学の勉強をしていた大の詩好き。「ハイクを読んだ時は単純な描写、短かさにすごくびっくりした」 |
〈see haiku here〉で見つけたイケダ・スミコの俳画。
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