●Alain Finkielkraut〈L’Imparfait du present〉
ソレルスやレジス・ドブレ、ベルナール・アンリ・レヴィに比べ、日本ではあまり知られていない現代フランス哲学者、アラン・フィンケルクロート。1949年パリ生まれ、強制収容所に入れられたユダヤ系ポーランド人を父に持つ。現在はエコール・ポリテクニックで哲学を教える。日本では2冊*しか翻訳は出版されていないが、すでに十数冊の著作がある。代表作に『La defaite de la pensee』やペギーに関するエッセー『Le Mecontemporain』などがある。思想的には、ペギー、ハンナ・アレント、エマニュエル・レヴィナス、クンデラなどの流れを汲む。
彼の新著は、三千年期元年に起こった出来事の流れに沿いながらも、「日記を書くのでもなく、年代記を記すのでもなく」、「何が起こっているのか」という問いの姿勢から書かれている。イスラエル・パレスチナ問題、『プティ・ロベール』の2001年版、教育問題、パポン裁判、人権問題、聖書の新訳、携帯電話、ロフトストーリー、そして9・11事件など、取り上げられるのは、昨年フランス、世界で起こった様々な出来事だ。
21世紀の幕開け、その最も強い意味で「postmodernite」を具現するこれらの出来事を通しての考察・思考から窺われるのは、一方では「現在」のパラドクスと深刻さ、そして他方ではそれらに対する憤り・動揺・哀しみに裏打ちされた「現在」への思考の緊急性だ。
本著で提示、示唆される著者の意見と相違する点があっても、「現在」の中で「現在」を思考するという哲学者の試みの大胆さ、緊急性は評価するに値するし、この夏、「世界」について、「現在」についてゆっくりと考えてみたい人には絶好の書物だろう。(樫)
*『20世紀は人類の役に立ったのか—大量殺戮と人間性』川竹 英克 (訳) 凱風社
『愛の知恵』磯本 輝子, 中嶋 公子 (訳)
法政大学出版局 りぶらりあ選書
Gallimard, 2002, 284 p., 17.50€