●HIGHWAY
鉄の重りを口にくわえた青年、ガラスのかけらの上を歩かされる幼い兄弟、彼らを見守る両親。凄いようなそうでもないような見せ物を披露しながら、乾いた大地をオンボロ車で移動していく大道芸人一家。
カザフスタンの監督セルゲイ・ドヴォッツスボイは、偶然市場でこの大道芸人一家に出会い、彼らの存在感にひかれカメラを回し始めた。喧嘩をする男の子たちの自尊心、口の悪い母親の子守唄の優しさ、飛べない鷹のひな鳥の飄々とした表情…、カメラは矛盾なく生きる彼らの生活を、長めのシークエンスでふんわりと包み込む。貧しい一家が貧しく見えてこないのは、監督自身が、シンプルな時を生きる一家の瑞々しい生の鼓動に感嘆し、敬意を表わしているからだろうか。
しかし、なぜ人は移動する感覚や流れていく風景に、こうもときめいてしまうのだろう。(瑞)● Mulholland Drive
待ちに待ったデヴィッド・リンチの新作は成功を夢見てハリウッドへやってきた女たちの話。前半部では交通事故で記憶をなくしたリタの身元をさぐろうと、女優志願のベティが、探偵さながらの活躍を見せる。後半部ではベティにそっくりのダイアンが、またまたリタにそっくりのカミーラと愛人関係を結ぶが、出世欲を出したカミーラはダイアンを捨てて新進の映画監督と結婚。絶望のあまりダイアンは自殺してしまう。メビウスの輪のようにつながる二つの話は、夢と現実の間で私たちを混乱させる。すべてがフィクションなのだとわかっていても、恐怖や失望、数々の謎への疑問が私たちの頭をよぎる。それにあの、全体に覆いかぶさるハリウッドという巨大な怪物の影。複線となる部分にもリンチならではの凝った演出が詰まっていて、「見たー」という充足感を久しぶりに味わった。(海)●Tanguy
現代フランス社会を皮肉たっぷりに描いてきたエチエンヌ・シャティリエーズの新作。博士論文に取り組みながら講師として教鞭をとる28歳のタンギーは、ブルジョワ階級の両親(アンドレ・デュソリエとサビーヌ・アゼマ)との同居を好み、いつまでも独立する気がない。タンギーの甘えた生活態度に嫌気がさした両親は、何とか一人息子が自立するようにあの手この手を尽くすのだが…意地悪の大御所シャティリエーズだから、と期待したら大外れで、生ぬるいシナリオに少しがっかり(最後の中国旅行を削ればもっとすっきりしたかも)。唯一楽しめたのは、研究旅行へ行ったタンギーの留守中に、1週間だけとはいえ夫婦が二人だけで羽を伸ばすシーン。その「つかの間の幸せ」は、後に待つ事件や災難の前奏曲のようで不吉な可笑しさがあった。(海)
新しい映画館
特徴のある映画館がふたつオープン。
L’Archipel Paris Cine
(17 bd Strasbourg 10e)は、映画音楽に捧げる特集に積極的に取り組みたい、という映画館。
Cineaternative
(18-20 rue Fg du Temple 11e)は短編映画専門館としてデビュー。