パリ国立美術学校で『Des Territoires』展が開かれている。ジャン=フランソワ・シュヴィリエは同校の教授でもあり、1994年から「現代社会におけるアートと情報」をテーマに公開授業を開始した。そこは生徒でなくても誰でも自由に参加でき、アーティストや知識人など多様な人々の意見交換の場となる。それらの成果は定期出版物として発表されてきたが、5号目にあたる今回は展覧会という形で舞台装置化されるに至った。 今年初めに、パリを拠点とする外国人作家たちの作品が、パリ市近代美術館の2つの展覧会『Paris pour escale』と『Ecole de Paris』で紹介されたのは記憶に新しいが、ノスタルジーとしてでなく政治的また社会的なテーマとしての領土問題をアートの文脈で取り上げるのはフランスでは非常に珍しいことといえる。 入り口のホールを抜けると、テリトリーを思わせるように細かく区切られた空間に、移民労働者の顔や、郊外の風景などが写真や文章で紹介される。作品の完成度は時として学生の発表会という感がぬぐえないが、それもENSBAならでは、と好意的に受け取りたい。最近はやりのワールド・スタンダードなアーティスト大集合のグループ展とはほど遠い、ていねいなアプローチは評価に値する。 しかし、タイトルから喚起されることの一つであるNYテロをめぐる一連の国際時事にはほとんど無関心であるのは残念だ。こんな時こそアートに何ができるのかと皆疑問を感じているはずであろう。その一方で真の意味のテリトリーとは、大事件なしでも、また国境に限られることもなく複雑に存在することを教えられる作品もある。例えば自閉症の子供の治療と平行して制作されたフェルナン・デリニーの作品には圧倒的な説得力があるし、またアン=マリー・シュネデールのデッサンの独創性も、全体的にジャーナリズムに偏りすぎの他の作品から一線を画していて興味深い。 宗教や民族、経済的格差はもちろんのこと、個人の習慣的縄張りや無意識の柵によって人は辺境を作り続ける。主観的表現が基本であるアートこその自由な解釈がもっと期待されるところだ。そして最後に現代美術にとって国境は存在するのか? 答えはまだ未回答である。(礼) |
*ENSBA : 13 quai Malaquais 6e |
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カタストロフの吸引力—天江竜太写真展 CNPのアトリエと呼ばれるスペースは定期的に若手作家を紹介している。メインの展示であるヘレン・レヴィットのポエジー溢れる40年代ニューヨークの街角を抜けると、突然怪物のような風景が目の前に開ける。 何年か前に天江竜太の『Fiction』と題された巨大なバベルの塔を最初に見た時、フィクションという言葉の曖昧さに戸惑ったのをよく覚えている。我々の中に潜む確実な既視感を煽り立てるような挑戦的な構図を前に、現実の記憶がいかに客観的ヴィジョンから遠い所で成立しているかに気付かされたからだ。 彼の作品の特徴であるアクション映画的画面は、その華々しさにもかかわらず、ハリウッドのSFX映画というよりも、何故か絵画のそれ、ロマンチシズムのダイナミックさやサンボリスムやシュルレアリスムの静寂さを彷彿させる。出来過ぎた建物、岩肌の見える斜面や国連軍の戦車、これらは事件の予兆の孕みだろうか、それともクライマックスの直後だろうか。そう思う時、無意識にもひとつの物語を、しかも楽園のカタストロフをどこかで待ち望んでいるのかもしれない。 実際のカメラ撮影なしで、デッサンからCGを経て綿密に制作されたドラマたちは、パーフェクトな残酷さ故に、寓意に満ちた古典絵画に通じる強烈なタナトスの吸引力で観る者を魅了する。(ローラ) |
*Centre national de la Photographie: |
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●Nan GOLDIN 身近な人々と共有した一瞬一瞬を失うまいとするような、ナン・ゴールディンの写真。未公開作品を含む約300点を展示。12/10迄 (火休)ポンピドゥ・センター ●<Haniwa> 5、6世紀の埴輪。12/15迄 パリ日本文化会館: 101 bis quai Branly 15e (日月休) ●David HOCKNEY(1937-) 新境地を開拓するごとに新鮮な驚きを与えてくれる、ホックニーの近作展。またしてもラジカルに制作方法が変化。アングルにインスパイアされた精密な肖像画。11/8~1/12迄 Galerie Lelong: 13 rue de Teheran 8e ●Raymond SAVIGNAC(1907-) 戦後フランスの広告を一新したイラストレーター。明快な色使い、ユーモアたっぷりのイラストを見ると、誰もがほのぼのと幸せな気分になる。1/12迄(日月休) Biblioth述ue Forney : 1 rue Figuier 4e ●Arnold BOCKLIN(1827-1901) 物質主義社会を嫌悪し、理想を求めてイタリアへ赴いた、スイス人画家ベックリーン。そこに古代の神々の住む世界を見い出し、ディオニュソス的生命力と死の静寂が漂う作品を残した。代表作「死の島」は、19世紀後半の象徴主義絵画の重要な作品のひとつ。1/13迄 オルセー美術館(月休) ●<Nostalgies coreennes> 17~19世紀の朝鮮の絵画と屏風。アーティスト李禹煥が持つプライベートコレクションを展示。1/14迄 Musee Guimet: 6 place d’Iena 16e(火休) ●<Paris-Barcelone de Gaudi a Miro バルセロナが現代建築の散らばる美しい都市となった1888年から、パリが万博でピカソの作品「ゲルニカ」を保護した1937年まで。ガウディ、ピカソ、ミロ、ダリなどの作品から、2都市間を結んだアーティスティックな関係を見る。 1/14迄 グラン・パレ(火休) ●<Raphael, Grace et Beaute La Velata、La Fornarinaを始め、世界中から集めたラファエロの絵画、デッサン、版画作品約30点。1/27迄 Musee du Luxembourg : 19 rue de Vaugirard 6e ●<Kannibals et Vahines, Imagerie des Mers du Sud> 冒険雑誌や子供の本、チョコレートのラベルのイラスト、映画のテーマなど、現在でも西洋に深く浸透するステレオタイプのオセアニア文化観を、18世紀末以降の数百点の資料から考察。2/18迄 Musee national des Arts d’Afrique et d’Oceanie: 293 av. Daumesnil 12e (火休) |
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