便乗派クロシャーセレストになる旅 ~お手軽ヒッチハイク講座~
日本にいた頃一度だけヒッチハイク(以下ヒッチ)まがいのことをした。学生時代、夏休みの住み込みバイトで日光の山頂の民宿へ。だが主人は怖い、風呂は水風呂、食事はレトルトカレーで早くも初日の夜に脱走を決意。「今帰ると親に合わす顔がない」という友人を大説得、交通費がなかったので停車中の車に近寄り「財布を落として…」と演技し便乗に成功。その後友人を2週間自分の家で養うというオマケもついてきたが…。日本はヒッチ文化が極めて薄い。上記のような非常事態にでも陥らない限り普通は進んでしようとは思わない。フランス人の友人は日本でヒッチをして上手くいったと語っていたがガイジン様だと話は別。日本で日本人がわざわざヒッチをすれば、奇妙な奴と警戒されるのがオチ。道路も混んでて残念ながらヒッチ向きではない。
さて私もフランスに住み始め半年がたった頃、人並みに「旅に出たい」と思った。だが単純に先立つ物がない。そんな時、見るからに貧乏学生くんが目の前で旅に出る準備をしていた。なんで奴まで旅できるの?と不思議に思い追求するとヒッチの旅だという。この手があった。この国にはヒッチ文化があったのだ。かくしてわがヒッチ人生が開幕。ヒッチが単なる旅の一手段という認識にかわり、その後は相棒とともにフランス以外もスイスやアイルランドもヒッチで訪れた。道化師のおじさん、引っ越し途中でしっかり荷物運びも手伝わせた青年、詩人キースの妻の愛人の妻、暇だからと50キロ近く余分に運転してくれた変な人…。親と同じでドライバーは選べない、そのおみくじ感覚も刺激的だ。停まる車の70%はオンボロだが、中にはベンツやアルファロメオなどの高級車、キャンピングカー、回送中のバスなど様々。
女性ドライバーも意外に拾ってくれる。ご飯を御馳走してくれたり、宿を提供してくれたりというのも少なくない。それは無償の親切に不馴れ(というか疑いの眼差し)のヒネた自分の矯正場にもなったと思う。そうして数をこなすうちに車を停めるコツらしきものも徐々に学習していった。例えば車待ちをする場所選びこそが命運を分けるということ。当たり前のことだが停まる側からすれば、停まりやすい場所だからこそ停まるのだ。車がスピードを出して走っているようなところや、逆に車で道路が混み合っているところ、曲り角のすぐ後というのはバツ。最も大変なのは大都市を抜ける時だ。自分が一番待ったのは忘れもしないジュネーヴ。朝から始めて炎天下の中7時間以上も立ちっぱなしで頭が溶けた。このような場合の打解策としては悔しいが始めから電車やバスに乗りある程度離れたところ、例えばパリ出発ならばオルリー空港近くまで行ってはじめる方が逆に時間を稼げる。またガソリンスタンドに行き直接交渉も有効だ。
待ち方としては無理にスマイルを作る必要はないが、危険人物でないことを示すようサングラスは避け、地べたには座らない。よく映画の中では親指だけを立てているが、『カウガール・ブルース』のユマ・サーマンでもない限り、行き先を書いたボード(そのへんの段ボールを拾えばよい)を掲げているほうが効果的。ただし目的地が遠過ぎるとドライバーが敬遠するので、せいぜい50キロ先位までが妥当。だが車が必ず徐行する高速の料金所はヒッチハイカーの桃源郷、巻き返しのチャンス!ここは大胆に長距離で勝負したい。ただしガードマンに捕まる時もあるのでご注意を。ドライバーの狙い方はナンバープレートに記載された県番号を参考にされたし。フランスの場合75がパリ、69ならリヨンと下2ケタでどこの地方の車かが判別可能なので事前に予習しておくことをお薦めする。地方番号は非常に便利で、自分の経験では、例えば車に乗っていてもうすぐドライバーに降ろされそうだった時、ちょうど隣に自分の行き先方面のナンバーの車が走っていたので、窓ごしに「乗せてー」と叫んだら乗せてくれたこともある。待ち時間ゼロ!これはヒッチ道ではウルトラCに値する。そして気になるのはヒッチの危険度か。バッグパッカーの定番ガイド『routard』さえ“ヒッチは危険”とお薦めしない。自分の体験でやや危険を感じたのは、車に乗ったら賛美歌チックな音楽が流れていて「いい曲ですね」と言ったら、実はセクトの宗教ソングで勧誘されかけたこと、喧嘩の後のようなカップルがスピードを異常に上げてたこと、トラックの兄ちゃんが酔っぱらっていたことなどか。私の知り合いの中には車に乗ったはいいが、ドライバーが突然「俺はヒッチハイカーは大嫌いなんだよ!」と行き先と全く違うところで降ろされた哀れな人もいる。まあこのくらいで済むならばいいが世の中にはヒッチがらみの恐ろしいニュースも流れている。やはり女性一人というのは避けた方が無難。とはいえ身を引き締めてなければならぬのは普段の生活でも同じこと。ヒッチに限らず何事もメリット・デメリットがあるわけで、その辺りをどう判断するかそれは各人次第だ。最後にそんな判断材料として参考までに個人的なヒッチメリット・デメリットを挙げておこう。はてヒッチを経て自分は何か変わっただろうか?そうだな…今だったら民宿バイト一日位じゃ根をあげたりしないと思うのだが、多分。(瑞)
《ヒッチハイクのメリット》
・もちろんタダ
・無差別にいろんな人に出会える
・ガイドブックにない情報が得られる
・本当の親切の有り難さが身にしみる
・戦術を練るので頭を使う旅になる
・日頃のおごりが消え悟りの境地に
《ヒッチハイクのデメリット》
・誰が停まるかわからず危険もある
・さらし者状態に耐えなければならない
・車の中ではドライバーに多少気を使う
・場所探しと長時間待ちは疲れる
・いい風景に出会っても降りるのは難しい
・旅が時間通りにはいかない
《ヒッチハイク・三種の神器》
~地図/太マジックペン/ペットボトル~
地図は絶対必要。マジックは行き先を書くために。紙は段ボールを拾えばok。炎天下で水がなければ大変なのでペットボトルは常時携帯。水道をみたら水を補給と考えよ。後は忍耐力がちょっとばかり。
infos pratiques
ヒッチハイクに挑戦する前に、こんなシステムで疑似体験をしておくのもいい。
《Covoiturage》
行き先が同じで、車を持たない人とドライバーを結びつける合理的なシステムCovoiturage。ヒッチハイク的な長距離の旅はもちろん毎日の通勤にも使える近距離タイプもある。
多くのCovoiturage斡旋団体があるが、会費とガソリン代の一部を負担するのが一般的。詳細はHPで。
〈ALLOSTOP PROVOYA〉
100年の歴史を持つ団体。会費とガソリン代込みでパリ-レンヌ約135F、パリ-ベルリン約301F。
Tel.01 53 20 42 42 (長距離)
Tel.01 53 20 42 45 (近距離)
www.ecritel.fr/allostop/
〈Covoiturage.com〉:www.covoiturage.com
〈Situation de crise〉:www.imaginet.fr/SDC/stop/