クレール・ドゥニの映画は独特だ。観客をすっぽり包み込んでくれるような暖かさはない。常にどこかに違和感を感じながら観ている。それはテーマのせいばかりではないような気がする。監督の中に観客との距離を保ちたいという意識があるのではないかなー。 話題の新作『ガーゴイル/Trouble Every Day』は、セックスの相手の肉体をしゃぶりつくさずにはいられない病気(?)に苦しむ男と女、そして彼を愛する女と彼女を愛する男の苦悩を描く。病気に冒されている男を演じるのは、もともとヴァンパイアー顔のヴィンセント・ギャロ。そして女はベアトリス・ダルが演じる。いや演じるというよりは物の怪に取り憑かれたように変貌してみせる。彼女は、本能の女優というようないわれ方をされているが、確かに彼女自身言ってているように「演技で役を作ることを要求する監督より、自分の中にあるものを抽出してくれる、信頼できる監督と組む」道を選んでいる。潔くその監督に身も心も委ねるのだ。クレール・ドゥニは彼女を得たことで、言葉を超えた肉体表現に成功し、さらにカメラのアニエス・ゴダールと共謀して、それを映画作品に昇華させた。 でもこの映画、観る人によっては、ただのB級のスプラッター映画かもしれない。血がほとばしる残酷なシーンが多いと聞いて観に行ってみたら、何か分かったような分からないような理由が付いていて、そこがうざったかったりして…。人間も動物で、性愛を突き詰めれば、こういう(骨までしゃぶりたくなる)側面も出てくるかもしれない。B級のスプラッター映画は、最初からそういうところを踏まえたうえで単刀直入、即物的に見せることに専念する。西洋インテリのドゥニ監督は、そこまで開き直るまで、あと一歩! (吉) |