忘れないために。 Aupres de la mer interieure


 大切な試験の朝、かいがいしく世話を焼く母親の傍らで、ティーカップを片手にぼんやりと物思いに耽る息子。母子家庭であること、仕事が面白くないことなどを愚痴る母親の声に重なって、突然「助けて!」と子供を抱きかかえたみすぼらしい身なりの女性が訴える。女性は強制収容所に入れられているのだ、と言う。収容所や戦争の悲惨さを女性から聞きながら、息子は次第に現実の世界と自分が実際に見聞きしたと信じる「空想の世界」の間を行き来し始める…。
 イギリスの若い演劇カンパニーのためにエドワード・ボンドが書き下ろした舞台劇が、スチュアート・セイドによる演出で初めてフランスで上演されている。この芝居の唯一の舞台である息子の部屋には、収容所も戦車も兵士たちも目に見える形では登場しない。すべては哀れにうめく収容者の声、様々な雑音や物音によって表される。女の表情やこれらすべての音がわたしたち観客の想像力をかきたて、子供の頃に泣きながら目を覚まし思い出すのも怖かった夢にも似た、恐ろしい悪夢の世界が目の前に広がっていく。空想とは現実の上に成り立つもの、空想よりも事実はもっと残酷で恐怖に満ち、忘れることのできない、いや忘れてはいけないものなのだ、とボンドはこの芝居を通して訴える。(海)
* Theatre de Gennevilliers : 41 av. des
Gresillons 92230 Gennevilliers 01.4132. 2626 火-土/20h30 日/16h 70F~140F

● Les travaux et les jours
 電気コーヒーミルメーカーのアフターサービス部門の事務風景が数カ月にわたって描かれる。時は1970年代の末、企業グループの傘下に入ることを契機にコンピューターの導入と大幅な人員整理が予定され、反対派の従業員たちが準備するストを横目で見やりながら、事務員たちはのんびりと他人の噂話、自分たちの恋愛話に熱中している…。こうしてあらためてみると1970年の終わり、80年のはじめは位置付けの難しい不思議な時代だ、と思う。60年代や70年代前半のように「懐かしい」といえるほどの主張や歴史に残る事件もないし、コンピューターなぞ珍しくなくなった今日から比べるとまだまだ「原始的」で宙ぶらりんの時代だといえる。この芝居の中でも特別な出来事など起こらず平平凡凡と毎日が過ぎていく。それは海のものとも山のものともつかないこの時代を象徴しているのだが、もう少し刺激があれば…と欲張りな2000年の現代人 (=私) は物足りなく思った。ミシェル・ヴィナヴェールの原作をアンヌ=マリー・ラザリニが演出。
*Theatre Artistic Athevains : 45 rue Richard Lenoir 11e 01.4356.3832

●Ubu

 生粋のロンドンっ子ダン・ジャメットが、アルフレッド・ジャリの『ユビュ王』を演出すると、とてもブリティッシュでサイケデリックでヒステリックな舞台に変身する。「予定されていた他の役者は食べられてしまいました、ごめんなさい」というセリフで始まるこの芝居は、人形劇を意識して作られた、舞台の上のもうひとつの舞台に閉じこめられているユビュ夫妻と、ふたりを挑発し操る人形遣いのような男の三人によって演じられる。独裁者ユビュ夫妻の叫びと異様な姿が、耳に目に残る1時間20分。12/22日まで。
* Theatre de la Cite Internationale :

21 bd. Jourdan 14e 01.4313.5050

●年末年始はやっぱりバレエ
 バレエ・ファンはお待ちかね、年末年始のオペラ座のプログラム。バスティーユのオペラ座ではチャイコフスキー作曲「くるみ割り人形」(12月2日~24日)。ロシア・バレエの黄金期を築いたフランス人舞踏家マリウス・プティパの振り付けがオリジナルだが、これは1985年にオペラ座の依頼でルドルフ・ヌレエフがアレンジしたバージョン。オペラ座ガルニエでは、ジョルジュ・バランシーヌの「宝石/Joyaux」(12月15日~31日)。エメラルド、ルビー、ダイヤモンドをドビュッシー、ストラヴィンスキー、チャイコフスキーの曲、クリスチャン・ラクロワの衣装がきらめかせる。新年はガルニエで、芸術監督フィリップ・ドゥクフレ、衣装フィリップ・ギヨテルの名コンビで「Shazam!」(1月12日~16日)。心配なのはオペラ座のスト。遅めの日にちを押さえたい。(仙)
問い合わせ・予約: 08.3669.7868