パリから北へ100キロ。作家ジュール・ヴェルヌが愛した町アミアンで、今年も11月10日から19日までアミアン国際映画祭が開催された。その中で紹介された作品群から、まずはこれからパリでも観られるお薦めをご紹介。
ジャン=ピエール・シナピ監督の『NATIONALE 7』 (6日公開) はトゥーロンの身体障害者ホームを舞台にしたデジタルカメラ撮影の作品。車イスのワガママ不良オヤジの願い「女が欲しい!」を叶えるため、世話係ジュリーは国道7号線に立つ娼婦探しに奔走する。ユーモアが絶妙に配分された味わい深い人間ドラマに、上映後会場が拍手喝采で揺れた。
一方、公開中の『GIRLFIGHT』は、日本人の血が流れるアメリカ人女性監督キャリン・クサマの長編第一作。ボクシングに目覚めることで、自分を取り巻く鬱蒼とした世界から抜け出す女子高生ダイアナの物語。強くなった彼女を待ち受けているのは究極の対戦相手。彼女の勇気と白目のむき具合が気持ちのいい逸品だ。
さて今年で20年目になる本映画祭、自慢は上映作品の数 (300本以上!) と選定の幅広さだ。特に滅多に見られないアフリカ諸国や少数民族の作品の豊富さには舌を巻く。今年はゲストとして『黒猫 白猫』の鬼才エミール・クストリッツアが訪れ、「マイノリティーの作家を保護する映画祭に参加でき光栄。自分も無名の俳優を好んで使うのでシンパシーを感じる」とエールを送った。
今年の回顧上映は、ジェームス・コバーン、ハイメ・ウンベルト・ヘルモジーオ、クレール・ドニ、ジャック・アーノルドなど。またラース・フォン・トリアーを始めとするヨーロッパ15カ国を代表する巨匠から、知られざる自国の宝=映画を推薦してもらい上映する企画「15×15ヨーロッパシネマ遺産」も、アミアンならではだ。(瑞)
詳細はwww.filmfestamiens.orgで。
●VIES
定年退職の日に沈着な態度で次々と角膜手術をこなしていく眼科医、屋根裏の住居兼アトリエで展覧会を準備する彫刻家、肉を切りながら自分の人生を5分で語ってしまう精肉卸業者、オーソン・ウェルズのアシスタントを務めた経験のある女性。監督アラン・カヴァリエが日ごろから興味を抱きビデオカメラで撮りつづける「ふつうの人々のポートレート」から選ばれた4人が紹介される。彼らに撮影の動機を説明し、緊張をほぐしながら近づくカヴァリエのカメラが映し出す映像には優しさが溢れ、カヴァリエと撮影対象しかいない撮影現場の、息づかいまで聞こえてきそうな親密な空気をつくりだす。ひとりの人間の数時間、または数分を見ることでその「人」に近づけ、日常の中にも様々な「ドラマ」が存在することを教えてくれる貴重な作品。(海)
クストリッツア監督
