フランスで避妊薬は1967年に認可され、1975年にヴェイユ法により妊娠10週間までの中絶が解禁された。1982年には中絶費用も医療保険で返済されるようになり、最近では校内にコンドームの自動販売機を設置する中高校もあるというから、フランスはさすが自由・平等・友愛の国、なんて進歩的なんだろうと感心してしまうだろう。(この1月、緊急を要する女生徒には校内看護婦が事後避妊薬NorLevoを投与できる通達が発表されたが、6月に国家評議会が無効にした) しかし現実はというと、年間約21万件の中絶が公私立病院でなされているが、それ以外に約5千人が中絶の合法期限が過ぎたためオランダやスペイン、英国*に中絶(2500F~4200F)しに行っているのである。その1割は未成年者だという。フランスでは未成年者の中絶には親の同意が不可欠なので、親の同意どころか母親にも話せない中高校生や回教徒系子女らは内緒で外国に行くしかないのだろう。 フェミニストや女権保護団体、出産計画協会プラニング・ファミリアルは、女性が直面し続けている屈辱的な現状を告発してきた。オーブリ前雇用・連帯相も女性としてこの問題を避けては通れず、避妊・中絶法改革案を10月5日、国民議会に提出した。議会で喧々ゴウゴウの論争が予想されたが、2、3人の超保守議員の遠吠えが聞かれたくらいで難なく可決された。あとは上院の採択を待つのみ。 改革案は、中絶の合法期限を妊娠10週間から12週間に延長する。2週間延ばすだけで、外国に中絶に行く女性の8割が国内で処理できるようになるわけだ。そして未成年者の場合、親の同意は不可欠ではなくなり、代わりに代理の者の付添いが必要となる。避妊薬の処方についても親の許可は不要に。また避妊薬や中絶に関する広告や宣伝の禁止令も廃止される。 改革案が年内に成立すれば、来年からは再び中高校の女生徒たちは緊急を要する場合、看護室で事後避妊薬の投与を受けられるようになるわけだ。 しかし、中絶に関する報告書を提出したストラスブール医大のニザン教授などは「10週目から可能なエコグラフィーや診断の結果次第で堕胎を選ぶ妊婦が増え、優生主義が広まる」と危惧し、現行法のままでケースバイケースで対応すべきと期限12週間を合法化することに批判的だ。 70年代以来フェミニストとしてボランティア的に中絶にあたってきたサン・ディジエ市立病院のシュヴァリエ出産計画所長は「中絶までに2カ月は待たされる現状の中で期限を2週延ばしたところで根本的解決にはならない。それよりも低学年から性教育を保証すべき」とジョスパン政府の小手先の改革を突く。 失意と挫折の間で女が独りで立ち向かう中絶、自らの意志で律することのできない性の不条理を生きる女体に対して、フランス社会はいぜん無情なのだ。(君) *「中絶合法期限」10週 : ギリシア/伊。12週 : デンマーク/ベルギー/独/オーストリア/ポルトガル。16週 : スウェーデン。22週 : 英/オランダ/スペイン。 |
中絶件数(’98) 214 000 中絶件数 (’75 : 25万)
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