ワインを片手に。 Le Vin et le Masque


 「酔いしれる時間だ!『時』に閉じ込められた囚人とならないために、酔いしれろ、果てしなく酔いしれろ!ワインに、詩に、あるいは徳行に、気の向くままに。」
(ボードレール)

 感動させられる芝居、衝撃を受ける芝居、引き込まれる芝居というのはよくあるが、この芝居、というより、その副題が示すように、この「演劇的試飲会」は、喉にくる芝居だ。ボルドー出身のエリック・サンソンが演じるのは、酒造主のおやじで、雑に言ってしまえば、いわゆる「お話」はなく、このおやじの、いかにワインは素晴らしいかという演説を聞くだけなのだが…その説得力がすごい。彼の話の中に挿入される様々な文学テキスト—Beaudelaire, Colette, Giono, Bachelard etc.—は単に詩的情緒をだすにとどまらず、ワインの拡がりを喚起させる。ワインと人類、ワインと時—「ワインは瓶に詰まった時」、ワインと文明yぢワインと芸術、ワインと色—「何故ワインが、黄金の色を持ったり、血の色を持ったりするのか?」、弁舌は単なる酒屋のおやじの饒舌を超え、ワインは単なる飲み物ではなくなる。芝居が進むにつれてだんだん喉が乾いてくるが、ちゃんと観客にはワインが用意してある。その説得力もすごい。その旨さは、語りの効果を加えて格別だ。そしてワインの味がさらに観客を芝居に引きつける。芝居の後はyぢワインの酔いと芝居の酔いが気持ちよく絡んでとてもいい気分。(岳)
*Theatre de Nesle : 8 rue de Nesle 6e
01.4634.6104 7/31迄 火−土19h00 / 20h30
100F (ワイン、チーズ込み)
※前もってワインをあけておいてくれるので、予約して行ったほうが、おいしく観られるでしょう。



● Le Rezizor 検察官
 帝政ロシアのとある地方に、都から検察官がやってくる、という便りが届く。 体制を恐れるあまり、有力者たちは通りすがりの旅人を検察官だと思い違え市長の家で歓待する。 皆から金を借り、統治者の妻や娘をたぶらかすお調子者の旅人は、里帰りを理由に町を去る。 皆が旅人の正体を知り唖然としているところに、「本物の検察官が到着した」と使いが来る。町中に蔓延した集団ヒステリーの中で人々が見たものは、たとえ悪夢に終わろうとも数々の「夢」だった。 市長の娘は検察官と結婚する夢を、農民たちは自分たちの生活が改善される夢を、そして有力者たちは都で出世することを夢見る。 夢の中でも一喜一憂する愚かな生き物、人間たち…。
 庶民からは支持を得たが体制からは非難を浴びたこの芝居を、作者ゴーゴリは失敗作と否定し続けた。 ゴーゴリにとって「悪夢」と化したこの喜劇は、このたびコメディー・フランセーズの上演目録に入り、ジャン=ルイ・ブノワの演出で夏休み前まで上演されている。(海)
*Comedie Francaise : 01.4458.9858
● L’Oeuf
 ベルギー出身でフランスに住み着いた作家フェリシアン・マルソーの舞台劇。主人公マジスは「世の中は卵である」という哲学を持っている。 「自分は生まれた時にこの卵から追い出された、はみ出し者なのだ」と、 盗み、ペテン、人妻との恋、結婚、そして殺人…。破天荒なマジスのたどる運命は、彼自身の告白として、また事件の証言として私たち観客=裁判官に語られる。「人生なんて司法上の大きな誤りにすぎないのさ」というマジスの一言で幕が下りる。
 ギャング映画ならぬギャング芝居。 黒いスーツに黒細のネクタイを締めた、マジスのクールでニヒルな様子、少し鼻にかかった声が発する俗語の数々はフィルム・ノワールの登場人物たちを彷彿させる。 33ある役柄をたった5人の役者が演じていると知って驚いた。 クリストフ・リドンの演出。6/6迄。(海)
*Theatre Mouffetard : 01.4331.1199