“自然のままで” というテーマで集められた19人のアーティストの作品を展示するこの展覧会は、訪れる人をただ作品を鑑賞するだけにはとどめさせてくれない。初めて一般公開されたという Jacques Kerchache の収集した昆虫のコレクションが、私たちに様々な問いを投げかけてくるのだ。標本になった蝶やこがね虫の形態や模様にじっと見入る。自然が生んだ力強さ、美しさに驚き、途方に暮れてしまう。私たちは一体、この完璧な作品を前にして、どこにアートの意味を見いだせるのだろう。
Tim Hawkinson の自分の爪と毛髪を細工して作った鳥や羽。小さなオブジェから、その大きさとはまったく別の次元での広がりを感じることができ、華道家ナカガワ・ユキオの花を肉感的にも暴力的にも見せる写真は、私たちが花に対して持つイメージを、ものの見事に壊してくれる。また、壁一面の小さな水滴がふくらんでは流れて消える Ann Hamilton のインスタレーションからは水のつぶやきが届き・・・。どの作品からも作者と素材・時間との誠実な対話が聞こえてくる。
大きく力強い Frans Krajcberg の彫刻は、焦がした木のマチエールや、フォルムが深呼吸したくなるほど気持ちよい。どこか昆虫を想像させるのは偶然だろうか。作者が自然の本質に触れ、作品が必然的な美しさを持つと、きっとこうした共通性が生まれるのではないだろうか。その構図はまるで “自然” というフラクタル図形の一部に組み込まれていくようだ。そんな作品はきっと、私たちには見渡すことのできない自然の全体像を相似形として感じ取らせてくれるに違いない。