ルーヴルのエジプト

N° 409 1998-02-01

街角のデザイン

タバコ屋のニンジン。
Les carottes des debits de tabac

“キャロット”と呼ばれているタバコ屋のシルシです。中央の文字入りが今の標準タイプ。右の紡錘形の旧タイプは、ずいぶん少なくなってきました。左は変種スパイラル人参。当然、赤くて細長いからニンジンというのだと思っていたら、もともとの起源はニンジンとは何の関係もなかったらしい。
　17世紀のタバコ屋は、 7、8葉のタバコの葉っぱをヒモで縛って紡錘形にしたものをぶら下げていた。いわば大型葉巻です。そして、このシルシを“quarotte”と呼んでいたというのです。初めは店内にあったものが、鉄や木の板、陶器などの看板になり、店先に出すようになって次第にニンジン化していった。
７区オルセー河岸の、現在 SEITA (たばこ・マッチ公社）のある場所に国営タバコ工場が造られたのが1845年。今、スピリアールト展を開催中の SEITA のミュゼには、手描きのトランプとキセルの絵が入った、19世紀のキャロットが展示されている。19世紀後半のパリを克明に記録したマルヴィルの写真にも、ネオンこそないけれど右の古人参タイプとほとんど変わらない“carotte”が写っています。
　看板だけでなく、もしタバコがニンジンだったら、愛煙家は愛人家でニコチン中毒はカロチン中毒…。
「さて一服、ポリポリ」（稲）