ポンピドー・センターは工事に入ったが、全部閉鎖ではなく、南コーナーのギャラリーだけが開いている。今年度最初の展覧会はブルース・ノーマンの過去30年を回顧する。
ノーマンは1941年米国インディアナ州生まれで、カリフォルニア大学にいるときに絵画を棄てて、彫刻やパフォーマンス、映像に興味を持った。20代のうちにメレディット・モンクやスティーヴ・ライヒ、ジョン・ケージ、マース・カニングハムなどとの出会いをかさね、カリフォルニアという、米国でも一味異なった空気に感化されたこともあるだろう。
ノーマンのコンセプトは極めて複雑だが、表現されたものはいたってシンプルかつ明快。だが、会場は迷宮のように複雑だ。今回はほとんどヴィデオとネオン作品に焦点を絞っているが、展示されているものを大きく分けると、(1)自分の身体や顔や口の単純な動き、簡単なシナリオをもとに繰り返され、あるいは反転されるパフォーマンス、(2)ネオンによる言葉の意味性とネオンの点滅・動きによって新しい意識感覚が喚起されるもの、と大別できるだろう。
彼の作品は、「私」の 「身体」が外部から否応なく与えられて固定観念化した感覚を、ずらすのだ。するとそこに新たな亀裂のような意識空間が生じる。現代の映像テクノロジーを使いながら、彼は直接的に身体にまつわる知覚の脱構築を図っているのだ。またそれだけに留まらず、彼の用いるテキストと行為は、今日の社会が定義する概念の意味性や関係性を再度問い直す。ヴィデオ作 「Good boy, bad boy」「Anthro/socio」「Violence incident」「World peace」などがそうだし、ネオン作品「One Hundred Live and Die」「White Anger, Red Danger, Yellow Peril, Black Death」がそうだ。不可解そうだが、とくと観ればノーマンのメッセージはよく伝わってくる。 (kolin)
*Centre Georges Pompidou / Galerie
Sud: 3月 9日まで