大学入学制度改正などに反対する学生によるデモや、大学封鎖の運動が全国に拡散している。南仏で始まった学生の大学封鎖は、仏国鉄(SNCF)や公務員の労組のデモが行われた3月22日にモンペリエ大学で起きた暴行事件をきっかけに、一気にパリ、ルーアン、リール、ボルドー、ストラスブールなど全国10大学に広がった(4月10日時点)。
大学入学制度を変更する「学生の成功と進路指導」法は2月半ばに国会で成立し、3月8日に施行された。個別の選考方式を採るグランドゼコールや専門学校と違って、大学は原則的に、バカロレア取得者全員が成績に関係なく入学できるのが従来のシステムだった。しかし、従来の平等原則に高校の成績や内申書が反映される選抜方式を導入する法案が昨年秋に閣議に提出されてから、大きな議論を巻き起こした。
ところが、学生組合の抗議運動はさほど高まらず、新制度を前提とした「パルクールシュップ Parcoursup」というオンライン出願システムが法案可決前の1月から導入され、法案もすんなりと国会で可決された。同法には、定員以上の出願がある場合は、出願者の学業計画や、「能力」と該当学部の教育内容を勘案して、大学側が入学の是非を判断すると規定されている。
学生組合は、全大学・学部の3分の1に選抜方式が採用されると予測し、「いい高校」の出身者が有利になると批判する。一方で、性急な新制度の導入で、大学側は選抜に対応できる人員や予算がなく、書類選考をしない大学・学部もかなりあるだろうといわれる。特に出願の殺到する大学・学部では、志望動機書や課外活動の実績などは考慮されず、高校の成績がいい者から受け入れることになるだろうとする識者の声もある。
抗議運動の先鋒となったトゥールーズでは、2つの大学とエンジニア学校2校を合併して、世界トップクラスの学際的大学「IDEX(イニシアティヴ・デクセランス)ラベル」を有する大学にする計画が運動のきっかけだった。それに伴い、合併大学への入学者が選抜されるようになり、学費(登録費)もかなり値上げされる予定であることが判明し、反対運動が昨年から続いている。選抜方式導入という点は、大学入学新制度につながるものがある。
モンペリエ大学法学部では、選抜方式導入に反対する集会が開かれていた講堂に覆面をした約10人の男が闖入し、棒やスタンガンで学生らに暴行を働き、7人に軽傷を負わせた。闖入者を学内に入らせた責任を取って学部長が罷免され、彼らと接触していたとされる教授とともに取り調べを受けた。リール、ストラスブールでも極右活動家がデモ学生と衝突、ストラスブールでは夜間に教室を占拠した100人ほどの学生を警察が排除した。
こうした暴力事件への学生の怒りが運動の先鋭化を助長している。封鎖に参加する学生は少人数でも、選抜と学費値上げの可能性に不安を感じている学生は多いのだろう。だが、改革賛成派の学生組合が言うように、改革の内容よりも感情論が優先されている可能性は否定できない。
志願者の多い大学・学部でのくじ引きや、脱落する学生が多いというという問題(学士課程を修了できない学生が6割以上)の解決を目指す改革だが、高等教育予算を大幅に増やせない政府は、選抜方式あるいは学費値上げの方向に行くのだろうか?このままでは将来的に、ほぼ無料で全員入学というフランスの伝統は破綻せざるを得ないかもしれない。政府の性急すぎる改革が成功するのかどうか行方を見守りたい。(し)