クレルモン=フェランのFRAC(地域圏現代美術基金)で開催中のグレゴリー・クリュードソン展 “The Becket Pictures”は、わざわざ列車に乗って見に行く価値がある、この夏おすすめの展覧会の一つだ。
クリュードソンは、映画のセットのような場面を作って撮るアメリカ人の写真家。展示作品は、彼が少年時代を過ごしたマサチューセッツ州の町、ベケットで撮影された。森で撮った作品は、18世紀イタリア絵画のように作者が遠くから見ているが、細部まで明確に写っている。映画的であり、絵画的でもある。どの作品にも、何かが起こりそうな不穏な雰囲気があり、デヴィッド・リンチの映画やエドワード・ホッパーの絵を思わせる。
そのひとつが、思い詰めた表情で鏡台の前に立つ女性がいる作品だ。カーディガンも壁紙も、彼女の瞳の青さに呼応している。時代遅れのスーツケースがクローゼットに入っている。ホテルのような部屋も一昔前の雰囲気だ。夫とおぼしき男性は、窓の外を眺めている。彼女は夫を殺そうとしているのだろうか? 会場では、そんな妄想を呼び起こさせるような作品が次々と現れる。少年時代、精神分析医だった父親の活動に興味があったというクリュードソンは、見る人の心をざわつかせる。もっと見たい、もっと作品について知りたいと思わせる、現代の大物作家だ。(羽)
9月17日まで (月休) 14h(日:15h)-18h