● 命名体験談
フランスに暮らす日仏など国際カップルに、お子さんの命名エピソードを聞きました。 ディテールにはそれぞれの思いや、親の文化背景などが見え隠れ。
ふたりで好きな名前をあげたら「エマ」。
葉子さんと、夫のピエール=アンリさんは、今年6月に産まれた女の子を惠真Emmaと命名。 —「学生時代にパリでベビーシッターをしていた子の名前でした。ジェーン・オースティンの小説の『エマ』も結構好きなので。日仏で発音しやすく、珍しすぎず、漢字で意味を持たせられることを条件に、夫婦で好きな名前を挙げたら、共通したのがこの名前。『ボヴァリー夫人』のエマはあまり好きではなく迷う原因に。両方のお母さんの名前をセカンド(deuxième prénom)、サードネームにするのは、長くなり日本で理解してもらえなさそうなので断念。漢字は、画数か意味を優先するか悩みました。日本では可愛らしい漢字も、無意味だとフランス人に意味を聞かれた時はしっくりこないとか (絵とか茉)というのを夫に説明するのも難しかった」。
フランスで生まれ、育つから、日本名。
裕美子さんとジュリアンさんは第一子を 凜子Linko と命名。 —「フランスで育つけれどもう一つのルーツも忘れないように、とフランス人の夫が日本名を希望。私が〈りんこ〉を提案し、漢字を選びました。「凜とした(清らかで力強いさま)女の子」、仏語訳は難しいですが dignité と説明しています。夫はシンプルに「音とリズムがいい!」と。表記は仏語の発音に合わせてRinkoではなくLinko。最近はフランスでもミドルネームをあまりつけませんが、娘が将来「フランス名がいい」と言うことも想定して Agnès アニエスに。義父が、もしも夫が女の子だったらと考えていた名前ですが、語源がギリシャ語の「純粋」らしく「凜」の由来にも近いんです」。
名前は旧約聖書から。日本とフランスで同じ発音。
ひろみさんとユダヤ系フランス人のミシェルさんは、2000年に誕生した女の子をレアLeahと名付けた。 —「妊娠4カ月目の羊水検査で女の子だとわかり、名前を考え始めました。日仏両方で同じ発音にしたかったので、候補はレアLeah、ミレナ Milena(カフカの彼女)、ルナ Luna。レアにしたのは、ミシェルが旧約聖書の名前を推したのと、イスラエルの故ラビン首相の奥さんがLeah(Hが付く)だったので私も同意したからです。日本の母に名前を伝えたら、最初の反応が『えっ、何、ステーキじゃあるまいし!』…苦笑しました」。
フェレ、ジャングル大帝、森本レオのごとく。
和田光孝さんと妻のリアイヴォンヌさんは1989年に生まれた息子さんを、レオLéoと命名。 —「和田という姓に上手くつながる音、ジョン・ケージ、レオ・フェレみたいに短く発音しやすい名前で、ジャングル大帝、森本レオで日本でもお馴染み。「レオ・ワダ」なんかいいね、と。私の父が「怜大」と凄い漢字を付けたのに、高校まで勉強ができず「名前負けの典型」と思っていたら、現在パリ第12大学法学部の教授!自分の息子がバンジャマン・ワダとかでも変だし、日本のジージとバーバが発音する姿もなんかヘンだと思ったのです」。
イギリス人のAntheaさんと真さんは、トマThomas と命名。
—「立ち会ったぼくもへばった18時間の難産で、生まれたのは男の子。翌日「トム・サトTom Satoでいいね(女の子だったらLily)」と妻に確認し、パリ11区の区役所へ。窓口で「ひょっとして大統領にでもなったら、トム・サトTom Satoでは軽すぎるんじゃないか」と、気持ちがゆらいだ。「米国3代目の大統領はトーマスThomas(ジェファーソン)だったし」と自己弁護しつつ、急遽Thomasで申請。それを妻に話したら「!?」という顔をされた。ぼくも妻も無国籍人間で、どこで生まれたかよりも、どうやって自分になっていくかのほうが大切だと思うから、日本風とか英国風の名前は初めから考えていなかった」。
● フランスで流行るか?日本の名前。
名前ガイドには《世界の名前》コーナーが定番となっているが、《おすすめ日本の名前》 ページに出くわすこともある。 「日本の名前はどれもオリジナル。世界の果ての国の、珠玉の名前はいかが…」と推奨される、日本の名前30選とは。
【女の子】 : Aï, Akiko, Arisa, Ayano, Ayumi, Chihiro, Emiko, Hiroko, Junko, Keiko, Kyoko, Mariko, Masako, Masami, Megumi, Midori, Mieko, Mika, Nanami, Naoko, Naomi, Reiko, Rika, Sachiko, Tomomi, Yasuko, Yoko, Yuka, Yukiko, Yuko.
【男の子】 : Akihiko, Daisuke, Hiroki, Hiroshi, Hiroyuki, Issei, Junichiro, Keisuke, Kenji, Kentaro, Koichiro, Kyohei, Makoto, Masaaki, Masahiro, Masamichi, Masanori, Satoshi, Shinji, Shinsuke, Shotaro, Shunpei, Tomohiro, Tomoyori, Tomoya, Yohei, Yoichi, Yuichi, Yusuke, Yuta.
国立統計経済研究所の資料を見ると、男の子の名前ではKenzoが1985年頃から人気。名前ガイド本ではフランス生まれのKenzoは12000人いてTOP100入り。Kenjiは75年頃から1600人ほど。Kenjee、Kenjy、Kenziなどのつづりも合わせればもっと多いだろう。Akira100人、Isao240人、Issey40人、Seiji50人など、日本著名人を彷彿させる名前がある。2012年からフランス生まれのSeiyaが31人。これは、『セントセイヤ』の影響だろうか。
女子名では、Ayaが約12000人いて、TOP100入り。とはいえ、こちらはアラビア語で「徳」の意味があったり、ガーナやコートジボワールでは木曜日に生まれた女の子につけるというマルチ文化ネームだから、一概に日本の名前とはいえない。1977年頃からHanaeも人気だ。5000人でTOP200入り。見慣れない名前だが、Anaéも好まれる。AnaïsとHanaéを合体させた名前だそうで、6000人いるとされこちらはTOP200入りしている。ふたつの名前を合体させ、ハイブリッドネームを作るのも、近年の傾向なのだそうだ。