先のカンヌ映画祭で絶賛されたレオス・カラックス監督の新作。ベテラン監督の作品が数多く紹介されるカンヌ・プレミア部門での上映だ。「寡作なカラックスにしては新作の完成が早いな」と思った人もいるのでは。だが今回は中編、かつ製作の経緯も内容も異色の作品である。
発端は美術館からの依頼。ゴダールやキアロスタミら巨匠とのコラボレーションで定評があるポンピドゥ・センターが、カラックスの展覧会と回顧上映を企画。その一環で、カラックスに「”あなた(の人生とキャリア)は今どんな感じですか?”(Où en êtes vous, Leos Carax?)という質問に映像で答えて」というお題を出した。結局、展覧会は頓挫したが、その答えである作品は残った。
冒頭からスクリーンに浮き上がる「Work In Progress(進行中作業)」の文字。だから、これが完成品なのかはわからない。現段階では約40分の詩的で暗示的なコラージュ風エッセイ。子供時代や父親、芸術について。あるいは戦争、独裁者について。自身を「詐欺師」と見なすなど、意味深な言葉が散りばめられる。
その表現方法はゴダールのパロディ兼オマージュと言えそう。しかし同時に、自身の過去作も贅沢に引用。監督が愛する人、愛した人も走馬灯にように現れては消える。オヴニーで長年映画記事を書いた吉武美知子さんのプロデュース作品『TOKYO!』に登場する怪人メルド氏も登場!カラックスと一緒にビュット・ショーモン公園を闊歩する。そして『アネット』に出演したマリオネットのベビーアネットはここでもスターだ。タイトルで 「C’est pas moi 私じゃない」と宣言してはいるが、紛れもなく「C’est Carax これはカラックス」な映画だった。(瑞)6/12公開