
旨味が凝縮した深い味わいで人気のあるコンテ(チーズ)。「環境保護のために食べるのをあきらめるべきなのか?」という気になる問いが取り沙汰されている。コンテ業界は地元の川を汚染しているという”自然主義者” ピエール・リゴー氏のラジオ番組での発言を、5月10日付フィガロマガジンが引用し、同氏がコンテの生産や消費の禁止を主張しているとする記事を発信。右派・極右系のテレビ局や極右政党「国民連合(RN)」がこれをSNSで拡散したのだ。
発端は4月24日にフランス・アンテール局が放送した環境保護系のラジオ番組。コンテ地方のチーズ産業に由来する汚染のために川に藻が増えて魚が減少する問題を取り上げ、それでもコンテを食べ続けるべきだろうかと自問する内容だ。それをフィガロは、環境保護派がコンテの生産と消費を禁止すべきと主張したと報道。それに対し、ジュヌヴァール農相からジュラ県知事、ヴォキエ国民議会右派会派議長やRN議員までが、SNS上の「#TouchePasAuComté」(コンテに手を出すな)で、「コンテは単なるチーズではない。フランスの誇りだ」などと反応し炎上。トンドリエ=エコロジスト党全国書記が、「私たちはコンテを食べるな、などと言ったことはない」と弁明する事態に。
コンテはジュラ、ドゥ両県を中心とするフランシュ・コンテ地方で作られる保護原産地呼称(AOP)を持つ熟成ハードチーズで、エマンタールやカマンベールなどに続き消費量で6位の人気チーズ。そのため、ここ30~40年で生産量が2倍になり、乳牛の放牧地もここ10年で15%増えて3.5万ヘクタールに(放牧乳牛由来の牛乳が義務づけられている)。
一方で同地方の川、とりわけルー川は牧草地への家畜糞や肥料の散布により窒素やリンによる富栄養化が進んで水質が悪化し、藻類が異常繁殖して魚が死んでいると地元市民団体が何年も前から訴えている。そうした団体は川の汚染はコンテ業界によるものだけでなく、浄水施設の老朽化、工場・家庭廃水、地球温暖化など複数の要因があるとしている。
「環境保護派はコンテを禁止しようとしている」と、CNews局など極右系のメディアが騒ぎ立て、シュニュRN副党首らも「エコロジストは肉の次はチーズを攻撃する」とSNSで拡散して政治に利用している。コンテだけに焦点を当てた議論は不毛でしかない。コンテだけでなく、農地や水といった限られた資源を利用する農業生産は環境問題に配慮し、節度をもって行われるべきなのは多くの人が賛同するところだろう。(し)
