濱口竜介監督
『Senses ハッピーアワー』

前祝いのように、フランス公開へ。

 いよいよ開幕が迫る第71回カンヌ映画祭。先日、濱口竜介監督の『寝ても覚めても』がコンペティション部門に参加を決め、邦画界に明るい話題を提供したばかり。主演は東出昌大、原作は芥川賞作家・柴崎友香の恋愛小説だ。監督にとっては商業映画デビュー作がカンヌに選ばれ、幸先の良い最高のスタートを切る。

 その前祝いのようにフランス公開となるのが、同監督の非商業映画である『Senses ハッピーアワー』(2015)。ロカルノ映画祭では主演女優の四人が、アマチュアながら最優秀女優賞を獲得し大きな話題に。神戸の「KIITOアーティスト・イン・レジデンス」招聘作家となった濱口監督が、即興演技ワークショップの受講生とともに8カ月をかけ撮り上げた作品で、監督本人も劇中で演技を披露する。ただし、演技を“披露”というよりは、登場人物はみな本人のもともとの存在感を劇中世界に溶かしながらある輪郭を持った深みのある人物像を獲得することに成功している

 主人公はアラフォー四人組。あかり(田中幸恵)、桜子(菊池葉月)、芙美(三原麻衣子)、純(川村りら)は、一緒に旅行するほどに近しい間柄だ。しかし、純は一年ほど前から、友人に知らせずに離婚訴訟中。それはやや不自然な形で、仲間が知ることになるだろう。まるで小石を投げられた水たまり。友人の心に波紋を広げてゆく。

 親しい人が急に遠く感じたり、相手を理解できずに困惑したり。とかく人を理解し、理解されるのは難しいこと。ならば話し合えばいい?  いや、言葉は重ねるほどに、空疎に響くこともある。そもそも、人を理解できると考えることは、傲慢なことかもしれないのだ。

 そんな私たちが無意識に感じているような、人間関係の戸惑いや苛立ちのあれこれが、本作には存分に詰まっている。ここでは人間関係を紐解く出来合いの処方箋は用意されない。しかし、希望・絶望とは白黒つけずに、これが人生、どっこい生きていこうと思わせられる。

『ハッピーアワー』という邦題、ケン・ローチの『Sweet Sixteen』や、イニャリトゥの『BIUTIFUL ビューティフル』ほどに、皮肉には響きません。3部構成(同内容ながらフランス版は5つのエピソードに分けられる)で紡がれる5時間17分の大作。長過ぎることなどない。流れるように、吸い込まれるように、するすると見られてしまうから。(瑞)

【公開情報】
フランスでは三回に分け順次公開。
5月2日から『Senses 1&2』、5月9日から『Senses 3&4』、5月16日から『Senses 5』。