第71回カンヌ映画祭 記者会見

Affiche officielle 2018 © Maquette: Flore Maquin – Photo : Pierrot lefou © Georges Pierre

 国際映画祭トップの地位を守るカンヌ。だが時代の要請に合わせ、内側から変革を迫られているようだ。恒例の記者会見では、時代に追い越されぬよう、ひたすら走り続けるカンヌの
“焦り”も感じさせられた。

 

世代交代が感じられる、コンペ部門

 最高賞パルムドールを競うコンペティション部門では、常連や巨匠の存在は抑え気味。コンペ作品は18本(ただし追加の予定あり)で、このうち実に7本がコンペ初参加の監督作品。明らかにカンヌは、新しい映画祭へと生まれ変わるための「賭け」に出たのだ。

 注目は濱口竜介監督の『寝ても覚めても』。ロカルノやナント、キノタヨ映画祭で受賞した前作『ハッピーアワーSenses1&2』は、五時間超の長尺をものともせず、フランスでも5月2日からから劇場公開される。今回の新作は、コンペの弟分・ある視点部門をすっ飛ばし、商業デビュー作ながらいきなりのコンペ入りだ。邦画では「快挙」と言ってよい。一昨年、『淵に立つ』で、ある視点部門入りした深田晃司監督に続き、新世代の日本人監督が、ようやくカンヌでも台頭してきたのは頼もしい限り。フランスと手を組みながら、日本人監督をカンヌに確実に送り込むパリ在住の澤田正道プロデューサーの手腕によるところも大きいだろう。

今年はさらにもう一本、日本人作品がコンペに入った。振り向けばコンペも五度目、もはや堂々たる常連の是枝裕和監督だ。リリー・フランキー主演の『万引き家族』で、余裕のコンペ入りを果たした。常連を極力外した中で選ばれたのだから、カンヌがよっぽど気に入った作品ではないか。

 

ゴダール「お好きなように」

 巨匠感薄めのコンペの中で、唯一、重量級の貫禄を醸し出すのが、87歳の最長老ジャン=リュック・ゴダール。今回はティエリー・フレモー映画祭総ディレクターに、新作『Le
livre d’image』のコンペ出品を打診され、「Comme vous voulez お好きなように」と返事をしたとか。つまり積極的な参加ではなく、「勝手にしやがれ」ということだろう。2014年にも『さらば、愛の言葉よ』がコンペに選ばれ、審査員賞まで受賞したが、ゴダール本人の来場はなかったのが記憶に新しい。

だが2018年の今年は、1968年からちょうど半世紀の大きな節目。トリュフォーらとともに、学生や労働者の運動に共鳴し、ついには映画祭を紛糾させた張本人が現れるなら、それは歴史的な意味を持ちそう。今年のカンヌ映画祭は、ポスターのビジュアルにもゴダールの代表作『気狂いピエロ』を使用。なんだかカンヌは、「主役はあなたにするから、今年こそ来てね」と、彼にアピールしているようにも見えた。

  同じくコンペには、政府から映画制作を禁止されているイランのジャファール・パナヒや、国家資金の流用疑惑で逮捕されたロシアのキリル・セレブレニコフなど、訳あり監督の名前もちらほら。彼らの来場が無事に叶うのかも気になるところだ。

 

ネットフリックスが不参加に

 カンヌとネットフリックスとの「仁義なき戦い」も、目下、続行中である。昨年の論争の答えとして、今年のカンヌは「コンペティション部門には劇場公開をしない作品は選ばない」との新規定を発表。これを受け、ネットフリックスは、カンヌに不参加を表明している。

フレモー総ディレクターによると、もともと今年はネットフリックス作品から、コンペに一本、コンペ外に一本を選んでいたが、新規定により、ネットフリックスと折り合いがつかなくなったとのこと。とりわけオーソン・ウェルズの70年代の未完の作品で、ネットフリックスの出資で完成に漕ぎ着けた『The other side of the wind』は、フレモーも鑑賞し、非常に気に入っていた一本。カンヌととしては「コンペ外」作品として上映は問題なかったが、ネットフリックスは新規定がお気に召さず、自社の作品を全て引き揚げた。この対応に、ウェルズの娘ベアトリスさんは遺憾の意を表明。ネットフリックスに再考を促している。

 

新企画「カンヌの三日間」

また今年の新企画としては、18歳から28歳までの若者が、カンヌ映画祭で公式招待作品を5月17日から19日まで鑑賞できるプロジェクト「3 jours à Cannes カンヌの三日間」をスタート。カンヌの公式サイト上から、モチベーションレターを送って申請できる。すでに募集開始から1日で、中国やインドを含む世界の若者600人から熱いレターが届いた。募集人数は千人。日本の若きシネフィルも奮って応募してほしい。

  このようにアマチュアの参加を促す企画が生まれる一方、プロのジャーナリストは、不便な環境を強いられることに。これまでは俳優や監督が出席する盛大な夜の公式プレミアであるガラ上映の数時間前に、ジャーナリストはプレス上映で作品を鑑賞することができた。そのためガラ上映前に、ネガティブな映画評が世間に出回ることも多かった。だが今回の改正で、ガラ上映前のプレス上映はなくなる。ガラ上映に参加する俳優や監督といった映画関係者が、ネガティブな批評に心を汚されることなく、レッドカーペットを歩くことができるというわけだ。

 ついに厳しい視線を持つプロの書き手は、正式に“厄介者”に認定されたということか。夜のガラ上映に全てのジャーナリストが入場できるわけではないため、ジャーナリストにとっては仕事がしにくくなったと言える。ネットを通して瞬時に「いいね」を共有さえすれば心満たされる時代、一家言あるプロのジャーナリストにとっては、受難の時代でもあるようだ。今年も波乱含みのカンヌ映画祭は、5月8日から19日まで開催される。(瑞)

4月12日の会見。ティエリー・フレモー映画祭総ディレクター(左)と映画祭プレジデント、ピエール・レスキュール(右)。

公式セクションの作品リスト
http://www.festival-cannes.com/fr/infos-communiques/communique/articles/la-selection-officielle-2018

「3 jours à Cannes カンヌの三日間」リンク
http://www.festival-cannes.com/fr/infos-communiques/communique/articles/le-festival-de-cannes-pour-les-18-28-ans