『Téhéran Tabou』
実写で撮影不可能なイランの暗部

©ARP Sélection

『 Téhéran Tabou 』

 イスラエル人アリ・フォルマン監督の『戦場でワルツを』(08)を覚えているだろうか。「アニメのドキュメンタリー」という野心的な試みに驚いた人も多かろう。先のカンヌ映画祭批評家週間で紹介された『Téhéran Tabou』もまた、アニメの可能性を感じさせる。ただしフォルマンのように新しい芸術表現に挑んだというより、実写で撮影不可能なイランの社会状況を、アニメの表現を借り、写実的に描いたもの。俳優を実写で撮影したあと、トレースして絵におこす「ロトスコープ」の手法をとる。だからアニメといえども人物の動きが滑らかで、生々しい。

 夜のテヘラン。車に乗る男女は娼婦と客の間柄。後部座席には唖者の男児が座る。物語はこの“ワケあり”女性パリを中心に動く。彼女は塀の中の夫と離婚できず、家賃も払えずで、仕方なく売春に手を染める。周囲には処女を妊娠させた学生、夫に外で働くのを許されぬ美人妻がおり、やがてパリの人生と交錯する。描かれる状況は深刻だが、風刺も効いている。登場人物が順に証明写真を撮りに行き、カメラマンが背景の色を逐一指示するシーンは、さりげないが印象深い。

 ドイツで活動するイラン人アリ・スーザンデ監督は、実際に子供を連れ売春をするイラン人女性の話を耳にし、本作の発想を得た。ここには私たちが見たことのないイランの暗部が容赦なく描かれる。好奇心からドラッグに手を出したり、性欲に溺れてみたり…。それは西洋や東洋、あるいはこの中東だろうが、どこで生きようと、時に欲望に流される平凡な人間の姿。ただし戒律が厳しい分、奇妙な結果を生む。小さな不注意が取り返しのつかぬ不幸を呼ぶのだ。面目を保つことに必死で、女性ばかりが犠牲となる社会システムのほころびも見えてくるようだ。(瑞)


 

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