ベルギーに贔屓(ひいき)にしている俳優がいる。イケメンでもなんでもない中年男優のファブリツィオ・ロンジオーネ。ダルデンヌ兄弟作品の常連なので顔を見れば、あっ彼のことかと分かる人もいるかもしれない。彼が主演する『Une part d’ombre / 影の部分』は、サミュエル・ティルマン監督による心理サスペンス。
ダヴィッドは、愛妻(ナターシャ・レニエ)と2人の愛らしい子どもに恵まれた幸せな家庭のパパで、良い友人仲間に囲まれて人生を謳歌している真っ最中、といったところが映画の出だしだ。友だちグループと過ごしたヴァカンス、家族を先に帰して野郎共だけ残る。ダヴィッドは夕暮れせまる森へジョギングに出る。翌朝、彼がジョギング中にすれ違った女性が遺体となって発見される、警察に事情聴取されるダヴィッド。もちろん最初は誰も彼を疑わない。でも警察は彼を容疑者とみなして徹底的な周辺捜査に乗り出す。と、彼の隠された部分が明るみに出てくる……。
でもまさかと彼を信じつつも、少しずつ密かな疑惑が親友達の心の中に芽生える。表面的にはいつものお付き合い、でもそれが次第にギクシャクしてくる。彼のことが新聞に載ると職場の雰囲気も変わる。夫が不倫していたことを知った愛妻もついに子どもを連れて出てゆく。友だちグループの女性たちは彼女に同情してダヴィッドへの疑いを深める。
一方、当事者のダヴィッドは、目に見えない形で、そして最後はあからさまに孤立して行くなかで身の潔癖を証明するために必死だ。しかし観客の我々も彼が絶対にシロだと思って彼に同情し応援しているわけではない。彼はグレーだ。
やはりこの辺のロンジオーネの演技が素晴らしく、我々観客を最後まで映画に惹きつける。またベルギー映画なので脇を固める俳優たちの中にフランス映画で見飽きた顔がいないのも新鮮だ。公開日 5/22 はカンヌ映画祭の真っ最中。カンヌの上映と同時公開の話題作が目白押し。小品佳作ノースターのベルギー映画は押し潰されそうだが、健闘を祈る!(吉)
上映館、時間などはこちらから→ www.allocine.fr/seance/film-262688/pres-de-121529/