フランスのなかでも、ブルターニュは海藻文化の根付く地域だ。ゴエモン (海藻)の採取は生活風景の一部であり、生きる糧でもあった。利用方法は多様化し、採取や加工技術は進化したものの、古今変わらず海藻と共に生きるブルターニュの人々に話を聞いてみた。
目の前にある海藻がプラスチックの代替品に。
ノルマンディーやブルターニュの海辺に、干潮時にお目見えするゴエモン。日本語の専門用語ではヒバマタと呼ばれ、北海や大西洋などの、岩が多く水温の低い海岸に生息する。〈four à goëmon〉と呼ばれる海藻窯で、乾燥させたゴエモンを燃やすと、灰はソーダ灰=無水炭酸ナトリウムとなる。この海藻の使用の歴史は、新石器時代まで遡ることができるという。ガラス製品、石鹸、そして最も使用されたのは肥料としてだ。海辺にある海藻窯から出る煙は、多い時は公害に近いものだったという。技術開発によって煙の問題は改善され、現在でもゴエモンを活用する工場はブルターニュの中でもBasse-Bretagne(フィニステール県、コート・ダルモール県)にある。
今、注目を集めているのが、合成樹脂(プラスチック)に代わる海藻資材を製造しているAlgopackという会社だ。褐藻を養殖し、また海藻の廃棄物を原料にして粒状の素材を製造。世界のメーカーに卸すと同時に自社製品を次々発表。代表のダヴィッド・コティ氏は、「COP21パリ協定で、使い捨てプラスチック袋使用禁止が決定されたことは前向きなことだと思います。政治的決定権を持った人々が環境への配慮を、社会に啓蒙する動きになってきました。我が社では、地中や水中で微生物などにより分解される生分解性プラスチックを、数年後には1年で5万トン生産できるよう目指しています」と、今後の抱負を語ってくれた。
マクロビオティックからたどり着いた、ブルターニュの海藻。
約30年前から自然食品に関心をもっていたという、パトリシア・ヘラルド・カルボニさん。
元々はパリに住んでいたが、様々な土地での生活を経てブルターニュにたどり着き、2001年に 〈Source de Vie〉 というアソシエーションを立ち上げた。
「17歳の頃から海藻の存在は知っていました。しかし当時は日本からの輸入品しかなかったのです。ブルターニュの年配の方はお菓子を作る際のゼラチンには agar-agar (寒天)を使っていたそうですが、私の周りで海藻を食べている人はいませんでした」。
現在は海藻を商品として販売すると同時に学校で海藻に関する授業をすることもあるという。
「中学生はやはり海藻を食べることにまだまだ馴染みはないようですね。まず海藻とは何か、どんな海藻が食べられるかなどを話します。学校外ではワークショップ形式で実際に海藻を使った料理を作ります」。
20社以上からなる海藻・海草組合と連携を持ち、Ocealgという名称で、海藻の紹介、啓蒙活動を行っている。
海藻料理の第一人者。
ブルターニュ人にしてバター嫌い。生クリーム、ソースも嫌い、というティエリ・ガレさんは、レストラン・ホテル職業高校で長きにわたり教鞭をとっている。そこでフランスで初めて「Art de la cuisine allégée軽い料理術 」という学科を設置した。16歳からガストロノミーレストランで修業、その後80年代に、サヴォワ地方のスパ・ホテルのレストランのシェフになり、湯治をしつつ総合的な身体調整をする『軽い料理 cuisine allégée』を提案。海藻を滋養のある食物としてとらえ、食養法、栄養学の観点で作る海藻レシピのパイオニアとなる。著書“Cuisiner aux algues 海藻料理”では、専門的な海藻の解説からレシピ、デザートまでを網羅している。
フィニステール県に頻繁に足を運び、海藻を自ら採集する。「海藻と魚介の組み合わせは誰でも考えるでしょう。でも、例えばローストビーフは普通脂肉を肉に巻きますが、わたしは生の昆布を巻くのです。その旨味に驚かれると思いますよ。または鴨の胸肉の皮脂を剥ぎ、海藻を代わりに付ける。80年代からやっている方法ですが、当時は誰も見向きもしませんでした。料理の世界には著作権はありません。私のレシピは今、有名どころの料理人が使っています」。
海藻に合うワインは「わたし自身はCôtes du Rhôneが好みですが、例えばアンズの風味のあるviognier ヴィオニエ種のCondrieu コンドリューがおすすめ」。
後進の育成にも熱心だ。ベトナムのナチャンという街で、今、料理学校の開設に協力している。