フランスは、がん治療が無料

 フランスで2017年に新たにがんが見つかった人は約40万人、死亡者数15万人(男性8万4千人、女性6万6千人)。抗がん剤やX線治療を続けている人も合わせると数十万人の人ががんと闘っていることになる。
 2000年2月、当時のシラク大統領はがん対策をフランスの三大課題の一つとして、「がんと闘うパリ憲章」に調印。国立がん研究所(INCA)を設立し、03年3月、がん対策5カ年計画の中で70の対策を発表した。その一つががん治療の無料化だった。治療や定期検診のための通院費用まで100%健康保険がカバーする。

一番多いがんの種類
 男性に一番多いのが前立腺がん、次は肺がん、直腸がんの順。女性は乳がん、直腸がん、肺がんの順。特に肺がんはこの30年間で7倍増! 80年代以降の女性の就労率の増加と比例して喫煙女性が増えているためだろう。2017年の統計によると、女性の肺がんによる死亡率は乳がんによる死亡率に接近しているという。乳がんによる死亡率は、定期的ながん検診での早期発見により死亡率がかなり減少しつつあるのだが。

がん発見5年後の暮らしの変化
 国立保健医学研究所(INSERM)が、5年前にがんを告知された23〜87歳の4179人を対象に2015年に調査した「がん告知5年後の生活」の統計をル・モンド紙(18-6-21) が公表している。(2012年の第1回目の調査はがんと分って2年後、がんを抱えて暮らしている人、全治した人など合わせて約300万人の調査結果を2014年に発表)。そのアンケートによると、2010年に肺がんが見つかり12年にまだ生きていた人の38.6%は3年後には死亡している。乳がんによる死亡率は5.7%。
 がん発見後の患者の3人に2人(63.5%)は、精神的な苦しみも含め後遺症が付きまとうという。半数近い48.8.7%は常時疲労感に悩んでおり、特に定職をもっていない人はその率が高い。肺がん告知5年後、3分の2(66.5%)の人は日常生活が悪化したと感じ、子宮頸がん手術を受けた女性の60.8%、乳がん手術を受けた女性の50.9%は生活しにくくなったという。

職業・カップル生活への影響
 がんと職業との関係は、がん発見後の就労率は87.3%から75.9% に落ちている。がんの種類によって異なるが、職業に一番影響を与えるのが、悪性黒色腫(メラノーマ82.9%)といわれる。次が甲状腺がん(72.2%)、乳がん(69.7%)、前立腺がん(69%)とつづく。がん宣告を受けた後、平均3年の病欠後、ほとんどの人が職場を離れ、抗がん剤やX線治療を続けている。がん告知3年後が職業的にも挫折を余儀なくされるケースが多いことがわかる。
 アンケートに答えたカップルの52.8% は、パートナーががん宣告を受ける前と後とはほとんど関係は変わっていないと答えており、むしろ関係が以前より深まっていると思う人は35.5%。しかし10.7%は関係が悪化したと答えている。全体的に性関係は、相手にがんが見つかる前より悪くなっている。18〜40歳以外の人の半数以上(56.8%)は、リビドー(性欲)の減退を指摘する。また64.8%は性関係の減少、53.8%はオルガスムを感じなくなっているという。

全医療費に占めるがん治療費の割合
 フランス人の間でがん治療はタダであるという常識が定着しており、市民の24%はかかっても500ユーロ未満と思っている。しかし、キュリー研究所がん監視所の2017年度報告書によると、実際には、がん患者1人につき年間平均5万ユーロかかっているという。同報告書によると、がん治療費だけでフランスは年間32億ユーロ支出しており、全医療保険支出額160億ユーロの20%を占めていることになる。毎年、新たに約40万人ずつがん患者が増えているなかで、2017年1月、経済協力開発機構(OECD)も、フランスの医療財政の不均衡化を指摘している。
 最後に国際がん研究センター(CIRC)が、2015年にフランスのがん患者を調査した統計結果(ル・モンド紙: 18-6-28)によると、がん患者の41%に当たる14万2千人(男性8万4千人、女性5万8千人)は肺がん、乳がん、直腸がんが占めており、生活環境・食生活(喫煙・アルコール飲料、肉食)から来ており、生活様式を変えれば、35%のがんは避けられるものと見られている。