フランスの主要都市市長ら、アルメニア人支援を仏政府に求める。
アゼルバイジャンのナゴルノ・カラバフ地方に住むアルメニア人が続々と避難している問題で、パリ、リヨン、マルセイユの市長や地方の有力政治家らが10月1日付ル・モンド紙上で、アルメニア人の支援を欧州連合やフランス政府に求める呼びかけをした。また、3日にアルメニアを訪問したコロナ仏外相は同国の安全保障のために軍事物資の供与を約束した。
アゼルバイジャン国内にあるアルメニア人居住地ナゴルノ・カラバフ地方は昔から領有権を主張する両国間の紛争が絶えず、アルメニア勢力が1991年にアルツァフ共和国として独立宣言したものの国際社会からは承認されず、今世紀に入っても紛争がたびたび勃発していた。今回は、アゼルバイジャン側が9月19日に軍事作戦を開始し、翌日にはアルメニア人勢力が降伏して武装解除された。
同地方は昨年12月から、アルメニアに唯一アクセスできるルート「ラチン回廊」がアゼルバイジャンによって閉鎖されたために食料や日用品が届かなくなっており、以前から人道危機も懸念されてきた。2月には国際司法裁判所が、封鎖による人道危機や「ジェノサイド」のリスクに警鐘を鳴らしていた。今回のアゼルバイジャンの勝利により、同地方のアルメニア人住民12万人のうち9月末時点で10万人が同地方からアルメニアに避難したという。また、今回の戦闘で200人以上のアルメニア系住民が死亡したとされる。
欧州最大のアルメニア人コミュニティー
20世紀初めのオスマン帝国によるアルメニア人虐殺から欧州に避難したアルメニア人は多い。フランスには欧州最大のアルメニア人コミュニティー(60万人。うち40万人は仏生まれ)がある。欧州在住のアルメニア人は、EUがロシアに代わる天然ガスをアゼルバイジャンから調達するために、ナゴルノ・カラバフの窮状やアゼルバイジャンの「民族浄化」に何ら対抗していないと非難しており、1日にブリュッセル(主催者発表1万人/警察発表3000人)やマルセイユ(同5000人/1000人)でデモが行われた。30年来介入しなかった国連ミッションも1日に人道支援のために現地入りしたばかりだ。
こうした状況のなか、フランスの一部の政治家たちは、ナゴルノ・カラバフ地方に残留あるいは帰還を希望するアルメニア人の人権を守ること、アルメニア人保護のためにフランスとEUがアゼルバイジャンに対して経済制裁などの強い態度をとることをル・モンド紙上で求めた。イダルゴ=パリ市長、パヤン=マルセイユ市長など社会党とエコロジー党が中心だが、ベルトラン=オー・ド・フランス地域圏議長ら共和党の政治家数人もこの呼びかけに署名。ボルヌ首相は3日、アルメニアの伝統的な同盟国であるロシアの平和維持軍がアゼルバイジャンの攻撃を黙認しているとして、アルメニアの主権保護のためのEUの支援計画が必要と発言した。
3日にアルメニアを訪問したコロナ仏外相は同国がアゼルバイジャンから自国を守るための軍事物資の供与を約束した。アルメニア領内にあるアゼルバイジャンの飛び地(ナヒチェヴァン自治共和国)を保護する名目で今後アゼルバイジャンが攻撃をしかけてくる可能性もあり、ロシアから距離をとり欧米に接近しつつあるアルメニアは危機感を抱いている。昨年アゼルバイジャンと天然ガス供給協定を結んだEU、そして国際社会の態度もあいまいで、在欧アルメニア人がますます不安を募らせるのも無理のないことなのだ。(し)